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四、クサいし吸われるし疑われるしでさんざんでございますわ! 三

 あばら家の出入口といったら、私達が入ってきた戸口と暖炉の二つ。暖炉は狭すぎて私しか使えない。私だけ脱出しても結局は意味がない。


「トピア……」


 リバーガの台詞が不自然にとぎれた。ヤンブルが足でリバーガの右手を蹴りあげ、力がゆるんだすきに剣を奪った。


「いっただき~! それじゃ頑張れよ」

「ヤンブル!」


 右手を左手でかばうリバーガを尻目に、ヤンブルは軽々と私達をすり抜けて戸口に至った。いきなりドアを開けて、むこうがわにいたゾンビを叩き飛ばすと一目散に走って消えた。


「いきなりなによ!」

「追うな! もう手遅れだ」


 私を制したリバーガは、もう手をかばってなかった。


 あばら家の壁は、みしみしいいながら少しずつ亀裂を広げている。武器もない今、まともに戦う手だてはない。


「お前なら暖炉から煙突を伝って外にでられるな?」

「そ、それはまあ……」

「なら逃げろ」

「あなたはどうするんですか?」

「血路を開く。早くいけ!」


 ぐだぐだ議論している場合じゃない。どのみち私は足手まといだ。割りきるほかはなかった。


 腰をかがめて暖炉に入ると、煙突の穴へはすぐに登れた。予想よりは意外に広い直径で、少し手足を突っぱれば簡単にはい上がれた。煤もほとんどついてない。


 煙突をでて屋根に足をつけるまで、大した時間はかからなかった。このまま地面に飛びおりて逃げるのは簡単だけど……。


「きゃあっ!」


 いきなり肩が重くなった。身体がふわっと宙に浮き、屋根が離れていく。思わず頭をうえにむけると、一匹の大きなコウモリが私の両肩を掴んで羽ばたいていた。翼の端から端まで私の身長の倍はある。へたに暴れて地面に落ちてもゾンビの餌食だ。おとなしくするほかない。などといったら冷静に対応したように思える。本当は、怖くて手足がすくんでいた。


 と思ったら壁を引き裂く音がした。あばら家に視線をもどすと、リバーガが板ごとゾンビを踏みたおして走りだそうとしていた。


「リバーガ!」


 私の叫びが届いたかどうかわからない。コウモリは私ごと闇に消えた。


 どのくらい飛んだだろう。いつの間にか、小高い丘がおぼろげに見えてきた。いや、ここ刑務所のはずなんだけど。まさか、食事に変な薬でも……!?


『残り二十』


 皮肉にも、物知りお姉さんのおかげでたしかにまだ刑務所だと安心できた。いや安心じゃない。


 コウモリは、丘の中腹を目指して高度をさげた。斜面が間近になるにつれ、ぽっかりと口を開けた洞窟の出入口が少しずつ近づいてくる。

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