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一、親の仇にようやく! でも、あと一歩というところで……。 二

 父は死に……いや、殺され、母は破産した家庭をどうにか維持するために無理がかさんで病に倒れた。


 父は貴族の資格を持つ、それなりに名の知られた錬金術師だった。ある日、突然異端と決めつけられ処刑された。根拠はいっさいなく、最初からでっちあげの茶番だった。


 まさに今、貴賓席にいる男……トローク公爵。家族の仇に近づくべく、私は何年もの間準備を積みあげてきた。結婚詐欺師として。


 公爵の三男と本気で結婚する気など最初からない。彼が夫としての義務を遂行できないと証明されたら、すみやかに私は離婚できるし夫の財産の半分を手にできる。ただそれは、副賞のようなものだ。本命はあくまで公爵本人。義理の娘になれば、近づく機会はいくらでもある。


 三男と知りあうまでの苦労からすれば、三男そのものはバカがつくほどたやすかった。二人きりで会いたいという三男の希望を半年間のらりくらりとかわし続け、どうせなら最初から婚約者としておつきあいしたいともちかけたらすぐに応じた。


 私は刃物も魔法も使えない。筋力も人並み。にもかかわらず、『自信』があった。どんな危険からも脱出できる悪運強さという『自信』が。


「それでは、トローク公爵家のご三男、サイゾ様より婚約者様の発表をお願い申し上げます!」


 舞台の右下隅にある小さな壇から、蝶ネクタイに燕尾服の司会が促した。そこでようやく拍手がやんだ。ちなみに公爵家が自腹で雇った専門職だ。公爵家の一族なり格下の知人なりがしてもよかったのを、私が頼みこんだ。招待客に飲み物や軽食を配るのも、テーブルをだしたり片づけたりするのもすべて同じ業者。


「えー、ほ、本日、で、で、ではなく今宵はにぎにぎしくご来駕の皆様、私ことサイゾ・トロークの婚約者発表会におこり……し、し、失礼しました、おこしくださりまころにありらとうございます」


 出席者の誰もが、晴れ舞台での若者の緊張だと解釈してほほえんでいる。


「そ、それで、このたび私のこんにゃく……し、し、失礼しました、婚約者であるトピア男爵家の、ルイーゼ・トピア嬢についてご冗談……し、失礼しました、ご紹介いたします」


 一同の注目が、矢のように私に寄せられた。私はつつましやかにお辞儀した。


「トピア嬢とは、は、半年前の舞踏会でしり、知り合い、それから私が見初めました。わた、私にとっては、まさに、まさに……」


 喉がかれかけた三男は、口を閉じて唾を飲みこんだ。


「り、り、理想の女性と……思っていたのです」


 え? 思って『いた』? なにそれ?


「し、し、しかし、ニ、三か月して兄上達から度重なるち、忠告を受けました。トピア嬢の経歴も主張も、ま、ま、真っ赤な嘘だらけと」


 はぁっ!?

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