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三、恐怖のデスゲーム開幕! でも、イケメンのムショ仲間ができましてよ。 八

 目を覚ますと、まっ暗闇のなかで汗だくになって横たわっていた。手探りでたちあがると、両肩になにかがのしかかっている。ひどく重い。


「熱いっ!」


 肩に手をやると、硬くてすべすべしたものにあたった。とびあがるほど熱い。おまけに息苦しい。


 わけがわからないまま頭をふると、すぽんと壺が抜けた。頭に壺をかぶっていたのがようやく理解できた。かなり大きい。


 壺は床に落ちてから、ごろごろ転がった。どうでもいいけど赤茶色をした素焼きで実用に使う品だ。


 壺のいく先を目で追うと、ものすごく大きな犬がいた。私の倍くらいの体格で、黒一色。目だけが赤い。貴族や商人が大型犬を飼っていることはある。それに比べても段違いだ。


 犬は、牙だらけの口をぱっくり開けた。うなり声でもでてくるのかと思ったら、まっかな炎が喉からほとばしるのが見えた。


 せっかく壺からだした顔をひきつらせて、回れ右しようとしたらつまずいた。質素な四脚テーブルの脚にかかとがひっかかった。


 部屋は、まったく同じ造りのテーブルが等間隔で二十ほどならんでいた。椅子もそれなりにある。材質は木じゃなくて石かなにかでできていて、ネジと直角に曲がった金具で床にがっちり固定されていた。つまり、椅子や机を即席の盾にすることはできない。


 たったいままで私がたっていた場所を、一直線にのびた炎が通りすぎた。それで悟った。犬は、私に一回炎を浴びせたんだ。でも、全身水びたしだったおかげで大した痛手にはならなかった。さらに、一回炎を吐くと次にそうするまで時間がかかる。


 なんてことを冷静に考えられるのは、皮肉にも私が詐欺師だから。相手の欲しがる言葉を探りながら、次から次にもっともらしい理屈を思いつかないと人はだませない。それが、こうした場面で相手の力を察することにもつながった。


 もっとも、いくらわかったところで逃げられるかどうかは別。犬は炎だけで私を攻撃するわけじゃない。走りだして、一気に間合いを詰めてきた。


『残り十』


 制限時間を告げられたの同時に、誰か頼れそうな人はいないのかと必死になって部屋中を見渡した。リバーガはおろか看守さえいない。


『食事は静かに、速やかに、完全に』


 なんて貼り紙が壁にあった。どうやら食堂らしいけど、いまや食べられるのは私の方だ。


 そもそも私は武器や魔法を使えたりしない。机の間を縫うようにして逃げまわるしかない。犬は図体が大きすぎて素早く曲がれないから少しは時間が稼げた。


 出入口にはドアがなく、犬を振りきれば廊下にでられる。少なくともリバーガと合流する可能性はでてくる。


 問題は、出入口の辺りは椅子やテーブルがないのですぐに犬に追いつかれることだ。だからといっていつまでもここで追いかけっこはできない。


 すぐに限界がきた。息が切れて、壁ぎわに追いつめられた。膝がふるえ続けてとまらない。頭のうしろが壁をつき、肌ざわりで貼り紙に当たったのを知った。


 犬は、口から舌をだしながら一歩ずつじりじりと近寄った。私はたっているのがやっとで、噛みつかれるのか焼かれるのか待つほかない。


『残り一』


 突然リバーガが犬にまたがった。うしろから近いづいてきて急に飛びのった。犬は恐ろしい声で吠えた。リバーガは少しもこわがらずに、看守から奪った剣を手早く犬の首に横から刺した。激しく血がふきでて犬は暴れ回ったものの、リバーガからすれば手綱のない暴れ馬をのりこなすようなものだった。


 床や壁を血まみれにして、犬はがくっと前脚を折った。彼が背中から降りると横倒しになって二、三回けいれんし、動かなくなった。


「ヤバいところだったな」


 相変わらずパンツ一丁のまま、犬の血にまみれたリバーガは私に声をかけた。


「ありがとうございます」


 ようやくにも、私の足はがたがた震えはじめた。

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