三、恐怖のデスゲーム開幕! でも、イケメンのムショ仲間ができましてよ。 七
「ちっ。さっさとやれよ」
リバーガは看守を降ろし、本人の要求どおりにした。
看守は、自由になったばかりの両手で壁をなぞった。一辺が指先から肘くらいまでの長さをした、四角いパネルが開いてバルブがあらわになる。
看守はバルブを両手で持ち、力をこめてひねった。水の勢いはたちまち強くなった。強く? とまるどころかめちゃくちゃに激しくなった。
「なにを……」
リバーガの姿が台詞ごとかき消えた。
私もまた、水の塊で頭を叩きつけられるようにして倒され、そのまま水を飲んで意識を失った。
『今日は、少し変わった料理にしたよ』
誰……? 物知りお姉さんなんかじゃない。あ、これは……。
十年くらい前の、家族がそろって口にした最後の夕食が夢にでてきた。父は料理も得意で、ときどき召し使いに代わって作っていた。
『変わったって、ステーキだよ?』
白い平皿には、クレソンを添えられた焼きたての肉の塊がおいしそうな湯気をたてている。私がけげんな顔をしたのと反対に、母は黙ってにこにこしていた。
『そうとも。まあ食べなさい』
『はい』
ナイフとフォークを手にしたとき、玄関が外から乱暴に叩かれる音がした。
『早く食べなさい!』
叱るような口調で父がうながし、私はあわてて肉にナイフをいれた。硬くてなかなか切れ目がはいらない。
『一口でも!』
常軌を逸した父のせかしように言葉もなく、フォークを突き刺した肉の塊にそのままかぶりついた。
あれほどナイフが通りにくかったくせに、あっさりと噛みちぎることができて拍子ぬけした。牛とも豚とも違う。羊でもない。臭みは全くないし、えぐみもない。不思議な辛さとともに、口の中に肉汁がほとばしった。
ドアが蝶番ごと戸口から外れ、ホールの床に叩きつけられるバターンという音が私の口を閉じた。その時にはすでに一口目を 飲み込んではいた。
ドカドカと足音を踏み鳴らし、鎧兜姿の 衛兵たちが食卓を取り囲んだ。
『もう食べ始めたあとか。悪運の強いやつだ』
衛兵の一人がむけた言葉は、私に対してなのか家族全員に対してなのか。
悪運。あまりにも異常なあの状況で耳にした言葉が、ずっと心に焼きついている。確かに私は悪運が強い。もっとも、土壇場になってからそうなるだけで普段はお世辞にも運がいいとはいえない。
「悪運……」
ぼそっとつぶやく自分の声で、食卓も家族も衛兵も消えた。次は、暗闇の中で遠巻きにキャンプファイアのような焚き火が見える。焚き火の周りには無数の人だかりがいた。中心には柱がたち、なにかがうごめいている。焚き火の炎が渦を巻いてふくれあがり、人だかりを飲みこんでから私に迫った。熱い。生きたまま火柱になりそうだ。猛烈に熱い。




