三、恐怖のデスゲーム開幕! でも、イケメンのムショ仲間ができましてよ。 五
ためらっている余裕はない。すぐにジッパーをさげた。浅黒く幅の広い背中に大小無数の傷跡がついている。肩や腕はたくましく盛りあがっていて、私など素手でもひとひねりだろう。
両腕が自由になるが早いか、彼はためらいなく囚人服を脱いだ。殿方なのでパンツ一丁。私こそ目のやり場に困る。
結婚詐欺師をしているくせに、私は殿方の裸を目にしたことがない。ついでに説明しておくと、肉体的な経験もまったくない。思わせぶりな態度で書類をこしらえさせたら巻きあげてどろん。そのくりかえしだった。
「床に転がれ」
「え……?」
ま、まさか……こんな状況で!?
「早くしろ! 看守をだしぬくんだ」
私が捕まる間に自分だけ逃げるつもりかもしれない。もっとも、ここで私が逃げても意味がない。所長によれば、階段の守護者とかを倒さねばならないようだし。
しかたなく、改めて床に倒れた。うつぶせで。彼は手近な独房に入って隅に隠れた。もちろん、出入口は開けたまま。
第三の足音が廊下中に轟くようになったかと思うと一瞬とまり、すぐに走り始めた。
「脱獄者を発見。なんらかの事情で転倒した模様。身体つきからして女性。トピアと推測。囚人服がはだけているがうつ伏せで、注意が必要。リバーガの行方は不明」
同じ若い殿方の声でも、ずっときびきびした生真面目な内容だ。淀みない話し方からしても、ある程度の訓練を積んでいるのがうかがえる。
「これより拘束し……うわっ!」
どすんばたん暴れまわる音がした。
「もういいぞ」
身体を起こしてたしかめると、囚人服を上半身に巻きつけられたまま寝そべっている誰か……たぶん看守……と、パンツ一丁のまま腕組みしている彼とがいた。
彼が横たわったままの誰かから囚人服をはがすと、看守の制服がはっきりわかった。腰には剣を吊っているものの、触れる暇さえなかったようだ。
「くそ、サイズがあわなさそうだな……。まあいい、お前トピアっていうのか?」
「はい。失礼ながら、あなたはリバーガ様でいらっしゃいますの?」
「ああ、そうだよ」
そうだ。強盗リバーガ。冒険者としてえた金品を売りさばいたら盗品で、返金を要求してきた相手を殺し、逆に金まで奪ったせいで指名手配されていた。結婚詐欺のような犯罪をしていると、こういう類の所業はすぐ耳に入る。
「その格好じゃ動きにくいしやりにくいだろ。待ってろ」
リバーガは、剣を看守からとって服まで脱がした。最後の慈悲か、肌着だけは残した。ついで、剣で看守のズボンや上着を適当に切った。
「ほれ。さっさと着ろよ」
「あ……ありがとうございます」
あまり恩を受け続けると、どんな見返りを要求されるか。さりとてこのままでもよくない。
リバーガは、自分から気を利かせてそっぽをむいてくれた。私は囚人服を脱ぎ、端がずたずたになった看守の衣服を身につけた。下着姿よりはまだましながら、早くまともな姿になりたい。
「すみました」
「よし」
リバーガは剣の切っ先を看守の喉元に据えた。
「待って! 殺してはだめです」
「ああ!? 生かしといたらまた俺たちを捕まえにくるだろうが」
「まだここの様子がはっきりしていません。殺すのはいつでもできるでしょう?」
そう。こうした施設は、説明されてない影のルールがあるに決まっている。




