一、親の仇にようやく! でも、あと一歩というところで……。 一
夢のような晴れ舞台。秋の夜長にお城のようなお屋敷の中にある劇場で、なかなか鳴りやまない拍手を浴びながら舞台にたっている。今夜の主役は私……ルイーゼ・トピア。
座席は大半が取りはずされ、代わりに白いテーブルクロスをかけた丸く大きなテーブルが何十個も据えてある。たっているのは客も同じで、公爵家の婚約者公表パーティーは立食形式から舞踏会に流れる段どりだった。たとえそれが末っ子……三男のものでも、ぜいたくなことに変わりはない。
天井からもたらされる魔法の明かりは、松明やランプと違い熱くない。にもかかわらず、私の頬は赤くなったままだった。恥ずかしいのではなく嬉しさで舞いあがっている。
この日のために白い肌をますます白く磨き、金色の髪にも日々欠かさず高い油をなじませてきた。胸のふくらみ、腰のくびれは運動と食事で管理。
私が身につけている純白のドレスには、親指くらいの大きさをしたエメラルドが数十個も散りばめられている。頭にかぶったケープには純銀の冠がかぶさり、額にあたる部分にはエメラルドと同じくらいのルビーが一個はまっていた。
そして、私の最大の引きたて役がすぐ右隣にいる。私のドレスと同じく純白の礼服をまとう、公爵家の三男坊、サイゾ・トローク。私より二歳うえの二五歳で、背丈はどうにか私より高い。つまり男性のなかでは小柄な方だ。そのくせ顎も脇腹もぽっちゃりしている。長男ではないから爵位は継げないものの、末っ子なせいか彼の父親は溺愛していた。そこがつけ目だ。
長男も次男もたくましい。三男のサイゾだけがだらしない。せいぜい、ろくに読めもしない書類にサインするくらいしか能がない。はためにもがたがた震えながらちらちらと私を眺めている。半年ほど前の舞踏会からこのかた、他人が三人以上集まったらいつもこうだ。公爵家の血筋という以外でとりえがあるとしたら、夏みかんの香りがするくらい……私が好きだからと一回口にしたら、律儀にもわざわざ調香師を雇って特別に調合させたそうだ。もっとも、私は食べるほうが好きといったつもりだった。
彼の父……ふつうなら私の義父になる人間は、舞台とは真向かいの貴賓席にいる。純白の正装だった。貴賓席は他の客席とは異なり、二階として宙につきでる形になっている。つまり、舞台を見おろす要領だ。
もう六十代ながら、義父は少なくとも肉体的には健康そのもの。背筋はぴんとしているし、痩せても太ってもない輪郭も銀色の髪も滑らかな輝きを帯びている。数年前に奥方が亡くなって以来ずっと独身だった。その精力的な顔つきは、いやでも私の半生を振りかえらせた。
『あなたの真の実力は悪運強さよ』
十年近く前、まだ幼い娘だった私を前に母は教えた。