7 落石にattention
パフェという人をだめにする三種の神器?(あとの二つは知らないのだが)に触れご満悦のヴィスカだったのだが、本題を忘れてはいけない。
そう洋服を買いに来たことを、ヴィスカの今の格好は嫌でも人目を惹く、ただでさえ珍しい緑の髪なのに対し体のラインが強調された、人前に出るのをはばかれる姿だ、今すぐにでも洋服を買って着替えさせたいのだが。
「とりあえずパーカーでも着てラインだけでも隠しましょう」
「そうだな」
優子の発言に頷く星魔。
プティックに赴いた優子はこれでもかというほどに張り切っていた、髪色や背丈に合うように色々な服をヴィスカに着せ始めた、フェミニン系やキレイめ系やベーシック系。
「あ、これ可愛いですね」
花柄のスカートを見せたときのヴィスカの好感触ときたら、他の服を試していた時とはまるで違った。
「私がいた世界には、花柄などほとんど見かけませんでした。でもここはまるでお花畑のようですね」
そういうとヴィスカは微笑んだ。
今までのアリーシャ・ヴィスカとは何だったのだろう、そう考えさせるような光景がここには広がっていた、洋服選びに悪戦苦闘し、自分に服を当てて鏡の前で、これは似合わないこれは可愛い、優子と顔を見合わせながら微笑む姿は、車を片手で止め、成人男性を突き飛ばすとは考えられないほど、少女。いや乙女であった。
向こうの世界では、どんなことを学び何をしてきたのか、こちらに来た時には剣を構え臨戦態勢真っただ中だった昨晩とは人が変わったように輝いて見えた。
彼女の元居た世界とは・・・星魔は店の外でヴィスカを遠目に見てそんなことを考えるのであった。
洋服のことなど分からないヴィスカは優子におんぶにだっこだったのだが、ご満悦なようで。
少し大きめのパーカーと花柄のスカート着て、両手に紙袋をこれでもかというほど持っていた。
「あっ」
「行くぞ」
星魔が自然とヴィスカの持っていた紙袋をその手にもつと。
「王子そのようなわけには行きません。私は王子に仕える身。王子にお手を煩わせるなどあってはなりません」
「よそを見てみろ、男が荷物を持つのは当たり前なのだ、ヴィスカは俺に恥をかかせるつもりか?」
辺りを見渡すヴィスカ、確かにカップルでは男性が荷物を持っている人のほうが多いように見受けられた。
「施しを受けたがらないのは分かるが、あまり拒否しても相手を不快にさせるだけだ、勝手知ったる中なら特にな、こちらの世界にヴィスカを呼んだのは俺だ、ならなおさらこれは俺が持つ物であろう」
それでも否を唱えようとすれば出来たはずなのだが、星魔の真剣な眼差しに気圧され。
「あ、ありがとうございます」
ヴィスカは謝辞を述べることしかできないでいた。
「じゃ、そろそろ帰りましょうか」
こうして一行は無事魔王城の任務である洋服を買うという目的を果たしたのであった。
「あれは!?」
帰り際、ショッピングモール内にある、円筒状に天井までが開けており、二階、三階からも遊歩道から一階を見渡せるようになっているイベントホールでは、【春の出会いと別れ、大声選手権】なるものが開かれていた。
イベント会場には多数の観客がホールを埋め尽くしていた。
「今人気のゲーム【春の出会いと別れ。】続編発売を記念して、ご来場の皆様にも春の出会いと別れの思いを赤裸々に大声に出して思いの相手まで届けてもらおうという企画です! そして優勝者には、メインヒロインである【東野まひる】限定フィギュアをプレゼントしたいと思います!」
壇上のお姉さんがイベントの主旨を伝えると会場は大いに盛り上がったのだ。
関係のない一般客も何事かと大勢集まってきている。
「ここでは私の独断と偏見で一人目を決めてもいいということになっておりますので、どなたか参加したい方いらっしゃいませんかー!?」
壇上のお姉さんの言葉に、会場はなんとも言えない熱気に包まれた。
「ヴィスカ! 優子! 一緒に手をあげてくれ!」
どうやら星魔もその作品のファンの一人のようだ。
やれやれと言った表情の優子に対し、王子の頼みなら仕方ないでしょうとヴィスカが手を挙げると。
「見つけた! そこの緑髪のあなた!」
緑という髪が目立っていたのであろう、すぐさま指され、ヴィスカは壇上に登ることになった。
◇◇◇
そこは星魔達の街の外れ、と言ってももはや街ではないのだがショッピングモールが見張らせるような高所もはや山地といった方が早いだろう。
あたりに木々はなく、大きな岩肌が剥き出しになっている一角がそこにはあった。
「折角の休日だっていうのに」
「まぁそう言うなってこれも任務なんだから」
そこには登山者? いや、登山をしている格好では無いだろう。
なぜならその者たちは黒いローブを身に纏い、フードを目深に被り顔を見せないようにして、大きなロッドを手にしているからだ。
これが運動着で杖だったら登山者だったかもしてないが。
側から見ると軽すぎる装いに登山をなめていると言われてもおかしくは無いだろう、そもそも明らかに登山者足らしめないものが一つあった。
宙に浮く岩石だ。
どうやらこの二人が浮かせているであろうそれは空中に制止していたのだ。
と言っても少し微弱ではあるが揺れている、重力という概念を失ったかのように岩石本来の役割を果たすことさえ忘れているのだった。
「でもさ、やっぱりやり過ぎなんじゃないの? 女の子にこんな大きな岩を当てるなんて、私なら絶対にやらないわよ」
「そんなこと言うなって、俺だってやらないかも知れないけど、でも力を試すならこれぐらいはしないといけないって」
どうやら否定的な意見を出している方が女性で、自分にこの案を無理にでも正当化させようとしているのが男性のようだ。
「ゴホン!」
二人の耳にしていたインカムから音割れしている咳払いが鳴り響いた。
耳鳴り混じりの耳にまたも耳鳴りがしそうな大声で。
「不満は任務が終わってからか、インカムを落としてからして貰えるか!?」
声からしてトラック運転手と話していた彼であろうことは間違いなかった。
「はーい」
任務を否定していた女性が上司からの説教にやる気なさげに返事をした。
「申し訳ありません以後気をつけます」
男性は先進誠意謝罪した。
「B班現場の報告を」
それは山地にいた二人に向けての発言だった。
「はい、こちらB班現在山地においてショッピングモールを確認、その後岩石を空中にて制止、いつでも発射させられます。こちらからは以上です」
「了解。現場の準備が完了するまでその場で待機、指示は追って連絡する」
「B班了解しました」
フードを被っていて分からないがお互い浮かない顔のB班、インカムの向こうまでにはその顔の映像は送り届けられないので。
二人は沈黙のままその場に待機という姿勢だ。
「A班現場の報告を」
そのチームはヴィスカ達のいるショッピングモールに潜伏する黒いローブ姿の物達へ向けられた。
「こちらA班イベント会場周辺の一般客の視界、聴力の奪取に成功。我々及び岩石を確認できません、次に辺りへの物理結界の展開も完了。こちらは一般客への被害を無くせるものかと思います、こちらからは以上です」
「了解それではこれより対象Bにおける最終テストを行う! B班は直ちに発射せよ!」
◇◇◇
イベントホールの壇上ではヴィスカだけが立っていた。
企画の趣旨によると、出会いや別れに対して自分の思いを大声に出すという至ってシンプルなものらしく、その優勝者が限定フィギュアを手に入れられるらしい。
「さぁ、お嬢さんどうぞ!」
壇上を離れた司会のお姉さんがヴィスカに促した。
「お父様! こんな私を育ててくださってありがとうございました! 今は新しい!?」
天井までが筒抜けになっているイベントホールの上にあるガラスから突然、破裂音が鳴り響く。
ヴィスカが瞬時に天井を見上げると大きな岩石がヴィスカめがけて落ちてきていた。
ヴィスカの思考が巡る、この岩石を避けるべきか、避けた先で攻撃を食らうのか、それともこの岩石を受け止めその上から奇襲をかけられるのか。
一か八か受け止め、盾として用いて相手の攻撃をいなし、その後反撃に出る。
だが、視界が塞がれてしまう。
もし王子が奇襲対象だったら・・・
巡らせれば巡らせるほど思考の檻に閉じ込められてしまうヴィスカは思考に時間を要したのもあってか。
もう間近まであった岩石を体で受け止めることを決意した。
その岩石をダンベルのごとく抑えるヴィスカ、その様子を見た星魔と優子は声を上げた。
だが、他の観客たちは何事もないようにヴィスカを見ているだけだった、まるで優子と星魔だけがこの時間に取り残されたかのように。
星魔がすぐさま慌てた様子でヴィスカの元へ駆けつける。
「大丈夫か!?」
ヴィスカは抑えていた岩石をまるでアフリカ人が頭上運搬から荷物を下ろすかのように軽く地面へと投げたのだが、地面には鐘でも鳴らしたかのような衝撃が走り、星魔も少し揺れていた。
「王子もご無事でしたか!?」
「逃げるぞ!」
星魔はヴィスカの手を取り、優子と目と目で会話し、ショッピングモールを後にした。
◇◇◇
今日はどれだけの距離を走っただろうか? 信号の時といいガラの悪い男に絡まれた時と言いさっきの落石といい、走りっぱなしの一日だったことは明らかだ。
だが、ろくなことがなかったと心労する星魔。
「王子、この世界では雨ではなく、岩石が降ってくるのですか?」
「あぁ・・・」
肯定の意味での返事では無いのは確かだが先程の出来事をどう説明すれば、どう解釈すればいいのか星魔でさえ悩んでいた。
帰路につきながら星魔は物想いに耽る。
落石とはどういった領分だろう、何を間違えれば落石などという非現実的な出来事が起こりうるのだろうか、鉄柱なら工事中の不慮なアクシデントで済ませられなくもない。
だが、あの場あの状況、人が集まる場所で落石。
テロと考えてしまえば納得がいくのだが、しかしテロリスト風の黒づくめや、おかしなお面をかぶった連中は一切出てこなかった。
それに、どうやってあの岩石をあの上空まで運んだのだろうか、あんなものをクレーンないしで運べば目立つ、そうなれば110番間違いなしな案件だろう。
人の手であの岩石をショッピングモール3階の屋上に運ぶこと自体がまず無理なのだ。
星魔の脳内では何を考えても人知の力ではエラーを吐き続けていた。
「なぜあの高さから岩石が落ちてこれると思う?」
もはや自問自答に近い言葉に誰も反応できなかった。ヴィスカは先ほどの質問に怒っているのではないかとさえ感じた。馬鹿なことを聞くなと・・・
「あの岩石はまず間違いなく人為的なものでしょうね。」
しばらく歩いていたら優子が口を開いた。
「あれだけの岩石が飛ぶには、飛行機が地面に激突したとしてもまず無理だと思うわ、飛行機の破片が飛んできたとしてもあれだけの岩石が飛び散ることはまずないと思うし、後隕石でもないでしょうねあれは熱を帯びていなかったわ、ただの岩石とすれば何かしらの方法で人為的にあそこに落とされたしかないんだけど・・・」
方法と意味が分からないそれは言わずとも誰もがわかっていることであった。
召王星魔が望んできた非日常は、アリーシャ・ヴィスカと共に飛来し、今日一日だけでも語り継いで行けるものではなかっただろうか?
だがその非日常は、召王星魔にとって、思い描いたものとは大きく湾曲し、思考の外側を回る衛星のような存在だった、決して近づくことのない思考、考えても考えても、手が届かない物。
これが本当に自分が望んでいたものとも知らずに召王星魔は・・・
ヴィスカのシーンをよくよく脳内で描いてみると遊戯王のマッシブ・ウォーリアーにしか見えなくなる不思議




