21 本当の彼女
パーティーも終わり仕道家が家へと帰り、礼一と雅美が2人の住むアパートへと帰っていった後、少年は1人自室で何か描いていた。
それは何を隠そう召喚の魔法陣と書かれた幾何学的模様の例のアレだった。
ヴィスカを元の世界に返さねば、ずっと思ってきたことだったけれどそれを実行に移すのが怖かった、自分は何に怯えている? わからない手の届かないものがすぐそこまで来ている、そんな訳のわからない感覚に苛まれている。ドラゴンや怪物。自分が想像したものはそんな非現実的で空想の世界の御伽噺に出てくるようなそんな存在を夢見ていた、それがただの夢だったら・・・いや今まで自分はこの現実を喉の奥から手が出るほどに彼女と1匹の存在を心の底から願っていたのは誰だ? 紛れもなく我だ。
だがその夢はもう叶った、彼女をこの世界に無闇に縛りつけるのは辞めよう。早く彼女の家族が待つであろう世界に返してあげなければ、我はその一心で再び魔法陣を描き、詠唱をしているのだがヴィスカやブードの時のように魔法陣は反応を示してはくれない、何かが足りない? 何が? 分からない? 先程からこの問答の繰り返しで自分の頭がパニックになっている、何かの時に不意に見えるあの魔法陣でなければダメなのか?
星魔の詠唱とは無縁の思惑がとある公園の森の中で起こっていた。闇夜に浮かぶ無数の赤い光、彼らは迷いもせず同じ方向へ大きな赤い翼をはためかせながら飛び立った。
◇◇◇
茜の部屋そこには茜とヴィスカがそしてパーティーの折、強制的に連れてこられたブードが満更でもない顔をしながら優雅に寝ていた。
ふと目を覚ますヴィスカ、それと同時にブードも目を覚ました。
「風が、風が鳴いています」
ヴィスカの言う通り、部屋の窓ガラスがカタカタと音を立てている。
「ついに来たか、奴ら恐れをなして使いのものをよこしおって、なめられたものだなこの私も」
「どうしたの2人とも?」
「すみません茜様起こしてしまいましたか、そのまま寝ていて下さいすぐに終わりますので」
ヴィスカは体を起こし、部屋に置いてある鎧を身につけ剣を背負った。
「と、突然どうしたの?」
「どうやら私どもの居場所を突き止めたようで、使いのものがこちらの世界に来たようです」
「茜様はご心配なさらずに、私はこの時のためにこの場に来たのですから」
「だ、だめよヴィスカちゃん危ないわ! ブード貴方なら1人でやれるわよね?」
「えぇ、もちろん、茜様がそうお望みなので有れば私1人でやってみせましょうとも!」
「だって! ヴィスカちゃん! ここに残って私を守って! お願い! いや! これは命令よ!」
茜は今にも部屋から出ていきそうなヴィスカに必死の抵抗をしてみせた。
「茜様、いや茜姉、覚えてる? 私がこの世界に来たのはきっと意味があるの、それが今。誰でもないこの私が今出て行かなければ、向こうの世界にいるお父様に示しが付きません、私には貴方達召王家を守る義務があるの、だからその命令には従えない」
ヴィスカの雰囲気、いや身に纏うオーラが変わった、決して見えるわけではない不可視のオーラが彼女が彼女たる所以がこの場を書き換えた。
「きっとすぐ終わりますので」
彼女が見せるあどけなさの残る笑顔はなにを思い描いているのか茜には分からなかった。
ヴィスカは1階へと降りていき、久々に履き慣れた靴に足を通した。
ずっしりとした重厚感、これだ、これなのだ、私が求めていたものそれが目の前に・・・今立ちはだかろうとしている。
ヴィスカは意を決し、だがどこか楽しげに、鎧のせいで重いはずの体は今朝風邪をひいた時よりも軽い。
彼女が家の扉を開けるとそこには1人の少年が立っていた。
「王子」
「おお、ヴィスカかどうしたこんな夜更けに」
「王子こそどうしてここに?」
「ああ、どうも眠れなくてな」
「王子ここは危険ですので一度家の中にお入りください」
「ん? どうした突然? そういえばヴィスカその鎧は」
その時だった。
「グギャアアアアア」
天に轟く高揚の雄叫び、耳を今にも劈かれてしまいそうな、そんな叫びが天を分つ。
叫びが聞こえた方を見れば、空には5つほどの黒い影が大きな月を背にこちらに1つの光弾を放った!
その途端ヴィスカは星魔の体を家の方へと軽く押すも、その勢いで星魔は尻餅をついてしまう、その光弾の方へとヴィスカが身を出したかと思えば、ヴィスカが背中から取り出した剣は宙を舞い、今までに聞いたこともないような音が天地を脅かし、フラッシュのような白光色が世界を覆う、その光により映し出される黒い1つのシルエット。
体の動きに合わせて動く流麗な髪、勇ましく猛々しい横顔、恐れるほど愚直な大剣、そしてその大剣を持つ少女の華奢で小さな身体。
きっとこの光景は星魔の海馬に永遠に焼き付くだろう。
世界に終わりを告げたかのようなこの光景を。
ヴィスカは怯むことなく星魔から距離を取り。
「グギャアアアアア」
天にいる黒い影に対して叫びを返す、それは威嚇の合図、私が相手だ! 私はここにいるぞ! そう高らかに宣言しているようでもあった。
5つの黒い影が地面に向けて急降下をし始め、Vの字に陣形を整えてヴィスカに向かってきていた。
ヴィスカはそれに臆することなくただただ大剣を構えていた。
その影はヴィスカに直撃する形ではなく、少し手前、地面スレスレで急旋回し、ヴィスカに襲いかかった。
地面に近づき分かるその巨体は、皆一様に赤一色に染まり、月光を乱反射させ、まるで鋼のような鱗を身に纏い、重力をも遮る巨大な2枚の翼を携えていた。
人はこの生き物をドラゴンと呼ぶ。
ヴィスカとドラゴンが一触即発!しかしヴィスカは一向にその場を離れず、ドラゴンの大きな顎がヴィスカを飲み込もうとしたその時。
ヴィスカが倒れた。後方へと地面に対し30度の位置で右足だけが縦に折り曲げられ自分の身体を静止させ、地面に触れないよう自分を支えていた。
大剣を今度は地面に対し直角90度の位置で固定し。
ギィィィィィン
酷く鈍い鉄と鉄とが重なり合う音が鳴り響いたかと思えば。
5体いたドラゴンの先頭を飛ぶ1体の体から地面に向け赤い血が噴き出し、真っ二つに裂けヴィスカの頭上後方へと滑り込んでいく。
ドラゴン達は指揮系統を失ったかのようにバラバラとまた天へと帰りたっていく。
「王子! 王子! 大丈夫でしたか!?」
「あぁ・・・あぁぁぁぁぁ!?」
喉から漏れる悲痛な叫び。
ドラゴンの淡くきれいなワインレッドの巨体から、クリムゾンレッドの生花が形なく咲き乱れ、先ほどまで見ていた少女に降り注ぎ、戦士へと豹変させていた。
その光景が星魔に恐怖を呼び起こした。
ヴィスカは自分の身体を見渡しながら星魔の顔をまるで憐れむように見やり。
「必ず守ります」
ヴィスカは星魔から離れ大剣を再び握りしめた。
その頃指揮系統を失ったドラゴンたちはと言えば、声を荒げながらも1体のドラゴンの元。2体のドラゴンが先程と同じように地面に急降下してきていた。
今度は少し隙間を開け、その直線上からヴィスカが逃げようとすれば、上にいるドラゴンが火炎玉を放ち退路を断つ、ヴィスカは2匹のドラゴンに挟まれるような形になる。
ドラゴンが近い付いてくると上からまた火炎玉が飛来し、それを剣で薙ぐとヴィスカは徐にその剣を空中へと放り投げた。
気でも狂ったのだろうか?
ヴィスカはブリッチの如く身体を仰け反らせまずは翼を避ける、そのまま勢いをつけて、ヴィスカめがけて向けられたドラゴンの強靭な腕に手を突き跳び箱代わりにそのまま頭を地に向け空中へと飛んだ。
その時またも空からは火炎玉が来ていたのだが空中を漂っていた剣を脚で掴み跳び箱で付けた勢いのまま、火炎玉をまた薙いだ。
しかし、地面への着地点には未だ背を向けたまま、そこを取り逃がすまいとドラゴン2体の尻尾が向かえうつのだが、まだヴィスカの勢いは衰えず、足に持っていた剣を両手に持ち替え、着地狩りをしようとしていた尻尾をぶった切った!
「「グッギャ!」」
なんとも情けないドラゴン2体の声が漏れる。
だが上空にいたドラゴンはこれを想定していたかのように、入れ替わり立ち替わり今度は安易にヴィスカに近付かず、ドラゴン2体で挟み込み、火炎玉で牽制を繰り返し始めた。
「これじゃただの消耗戦じゃない・・・ヴィスカちゃんに勝ち目なんて・・・」
家の中でただただ立ち尽くす茜、何もしてやれない歯がゆさが身を引き裂き、心を穿つ。
ブードは一体どうしたのよ・・・茜があたりを見渡すも、余裕綽々だったブードの様子はない、そこで腰を抜かしている、星魔も頼りになりそうにない。
声を出してブードを呼んでいいものなのか・・・自分が声を出せばターゲットがこちらに移り、足手まといを抱えながら戦いを強いられる形になるのではという葛藤の末。もはやお手上げ状態だ。
だがこのまま手をこまねいていてはいずれヴィスカは、4対1という圧倒的不利な状況でどうしようもない。
その時だった、空中に漂う5つの淡い白い光が見えたのは、援軍!? あの光は敵か味方か? 藁にもすがる気持ちの茜の心には絶望の二文字しかなかった。
もうお終いだ、味方のわけがない。
敵の更なる刺客だろうことは明らか、ブードが言っていた、使いのものと・・・ならばさらに複数体いてもおかしくはないそう思った時だった。
空中を浮いていた1つの影が突然地面に急降下し、そのまま地面に打ち付けられたかと思えば、もう1つの影も同様に地面へと自由落下をし始めたのだ。
それを見ていた2体のドラゴンがいきなり声を上げ始め、散り散りになり、明らかにその5つの淡い光から逃げ出そうとしていたのだが、その光のスピードとは歴然たる速さの違いがあり残る2体のドラゴンたちも地面へと落とされた。
その淡い光が徐々にこちらへ向かってくる。
ヴィスカを見やれば肩で息をしている、茜は一目散にヴィスカの元に駆け寄り。
淡い光の着地地点からヴィスカを守るように背後に置いた。
「あなたたちは敵? それとも味方?」
「茜様ご心配なさらないでください、この方たちは味方ですよ」
息を整えながらも未だ息の荒いヴィスカが茜の背に声をかける。
その淡い光たちは黒いローブに身を包みフードを目深に被っていたために顔までは見受けられなかったのだが、やけに凸凹した印象をうける、中には子供が2~3人は混ざっているのではないのかと言うほどの身長差だ。
いや、2人だけがやけに背が高いだけの可能性も捨てきれはしないのだが。
5人は明らかにこちらを見やり、星魔をみやり、茜たちのほうへ手招いた。
茜がどうしてよいものか迷いあぐねていると、ヴィスカがローブたちのほうへと赴いた。
「ヴィスカちゃん!」
茜がヴィスカの手を掴むと。
「大丈夫ですよ茜様」
ヴィスカは茜の手を解き、そのまま歩き出した、ローブの1人が何も言わずに手に持っていたロッドをヴィスカにかざすとその先から水が噴き出した。
「ヴィスカちゃん!」
水に浸されたヴィスカの全身からは血が見る見るうちに落ち始め、戦闘前の綺麗な鎧に戻っていた。
ヴィスカに水を浴びせたローブは頷き、そして5つの光は三々五々に飛び散りエビチリ、ドラゴンの死体の元へと向かうとその死体全てを宙に浮かび上がらせ、そのまま空へと飛び立ってしまった。
こうして。パーティーは本当の終わりを告げた、少年の心に恐怖を与え、少女の心に虚無感を抱かせ、剣士としての本性を蘇らせて。
ここが書きたいがために今まで書いてきました、ここが伝わっていれば今までの話とか正直どうでも・・・ここまで読んでいただき本当にありがとうございます!適当に賞に出したいとしか思っていませんでしたのでここから先を書くのはもっと他の小説などを読んで勉強してからにしたいなと思っております、次がいつになるかは分かりませんがその時までエタらないように頑張ります
次はまだ一章の続きで、二章は案があるのですがまだ着手していませんがよろしくお願いします。




