18 コロンブス
それはまるで白い巨塔かのように群れを成す1つの集団、先頭には茜と手をつなぐヴィスカの姿があった。
「気にすることないわよ星魔に気なんて使ってみなさい私なら3日で手が出るわ」
「そうでしょうか?」
「ごめん1日の間違いだったわ」
ヴィスカが言いたいことはそういうことではないとわかっていながらもどうにか元気を取り戻してほしいと茜は必死だった、彼女が落ち込むところを見たくはない、それが茜の本心なのだから。
リノリウムの床を抜け、フローリングの床に移り変わるとそこには天井が広々としていて、ウッド調が売りの学食へとたどり着いた、この建物が真新しいのはここ最近の生徒会の打診により作られたからであるらしい、生徒会もいい仕事をしたものだとその当時の会長を崇め奉りたいところだが、校舎事態そこまで古くはなく、ただ単に校舎設立以後学食もあった方がいいという多くの生徒の意見を反映した結果、予算的な意味合いで近頃新設されたというだけなのだが。
「おーいこっちこっち!」
「ごめん待った?」
「お、今来たとこだぜ」
先に席に座りながら学食を食べている2人の少女、安藤綾香と井上泉がデートの待ち合わせをしていたカップルかのような会話で出迎えてくれた。
そして茜とヴィスカについてきていた多数の生徒たちはというと皆三々五々と言った風にばらけていったこれはあくまで個人のプライベートにまで首を突っ込んではいけないという生徒たち自らの規律である。
「で、その子が噂の?」
「そ」
ヴィスカに微笑みかける茜を察して。
「あ、初めまして私アリーシャ・ヴィスカと申します今後よろしくお願いします」
「「「かわいー」」」
3人は口をそろえてそのとろけそうな甘々の自己紹介に悶えていた。
「よろしくね、私は安藤綾香、綾香でいいわ茜のクラスメイトなの」
「で、私が井上泉、私も泉でいいよ、私も茜と一緒のクラスね」
あ、これはご丁寧にどうも、とヴィスカが頭を下げる。
「あれ? そういえば星魔君たちはどうしたの?どうせなら一緒に・・・」
星魔の名前が出た途端、ヴィスカの顔色が悪くなるとともに、ヴィスカに見えないように顔ジェスチャーで今星魔の話はしてはいけないと綾香に圧を送る茜。
「あ、ヴィスカちゃん何食べたい? 今日お昼用意してないでしょ? 私が買ってあげるわ!」
「あ、はい・・・」
ヴィスカの浮かない顔にどうにか食らいつこうとする茜
「そうね色々売ってるし見てくるといいわ」
泉はどうにか話を繋ごうと必死だ。
「ほらいこ! 早くしないとお昼休みが終わっちゃうわ!」
茜が手を引きヴィスカを学食の券売機まで連れていく
「なにがいっか、昨日カレーは食べたし」
ヴィスカの目の前に広がるのはまたしてもこの長方形の箱。先ほどこれの前で失敗した本当の意味で苦い記憶がよみがえる。
「大丈夫よこれには変なものは入ってないわ、うーん箸じゃない方がいいかな、パスタがいいわ今日はカルボナーラにしましょ!」
ヴィスカに券売機の文字だけを見せてもメニューの判断がつかないと思い自分の判断で決めてしまう茜、だがヴィスカは何も言わずにただただ茜の後をついて行くのみだった。
「おばちゃんこれ頂戴!」
茜が券売機の前に立った時点で生徒たちが蜘蛛の子散らすように厨房の前から去っていったのは気のせいだろう。
「あら茜ちゃん、ん? 見ない顔だね」
「そう今日転校してきたばかりなの、ほら」
茜はヴィスカに挨拶を促した。
「初めまして私アリーシャ・ヴィスカと申しますよろしくお願いします」
「はいよろしくね」
おばちゃんのにっこり笑顔にぎこちない笑顔で返すヴィスカ。
「おばちゃんこれは苦くないわよね?」
茜はおばちゃんにウィンクをして無難な返答をしてもらえるように促した。
「大丈夫さ、ちょっぴりブラックペッパーが効いてるかもしれないけど基本甘めだよ」
すぐに出てきたカルボナーラを受け取り元居た席に帰る茜とヴィスカ、おばちゃんのまた来てねの言葉を背中に受け、2人で手を振り返すもヴィスカはやはり浮かない顔だった。
「「おかえりー」」
「ただいま」
「た、ただいま」
「美味しそうなカルボナーラだね」
「ヴィスカちゃんパスタ食べた来ないわよね?」
「はい」
「えぇ! 今どきパスタを食べたことないJKがこの世に存在するなんて・・・絶滅危惧異種より珍しいんじゃない?」
「アレルギーとか? 私アレルギーとかないからわからないけど治るとは聞いたことあるわ」
「なるほどね! ま、食べてみ食べてみ、美味しいぞー」
泉と綾香がいい方向へと捉えてくれて、ありもしない捏造をせずに済んだと心の中で安堵する茜。
ヴィスカはカルボナーラを前に固唾をのむ、だが茜は自前のお弁当を広げ始めていた、この物体がもしおいしくなくても星魔の時のようにはなるまいと覚悟を決めて、はむっ
「!?」
「お!? どしたどした!? そんな新大陸を発見したコロンブスみたいな顔して」
「いやいやどんな例えよそれ」
「お」
「「「お?」」」
「美味しい」
「「「かわいー」」」
ヴィスカの持つフォークにはエンジンでもついているかのように自動補助機能で止まることを許してはくれなかった。
お昼休み終了5分前になって颯爽登場! したのはまぎれもなく優子だった、2人へと挨拶を交わしヴィスカの様子を窺うと休憩前の不調全開と言う顔色から一変して、今はご満悦な表情で4人で会話を楽しんでいた。
茜に近づく優子
「どうでした?」
「ご覧の通り」
「ヴィスカちゃんのことだから何かと星魔に気を使っちゃうでしょ、その辺見ておいてあげて、出来るものなら私が見てあげたいんだけど」
「分かりました、まぁ今回はどうしようもないことだとは思うので、ありがとうございました」
「優子ちゃんが謝る必要ないわよ、ちょっとは星魔に考えて行動するように言っておかないと」
「大丈夫だと思いますよ星魔も同じものでいいと言われたけど説明し忘れたって後悔してましたから」
「あいつの説明じゃあてにならないわよ知ってるでしょ?」
「ええ、まぁ」
2人は顔を近づけ内緒話を続けていたがさすがに長すぎるため3人の顔はこちらに向いていたと同時に食堂全体からも熱い視線を感じるのは気のせいだろう。
「じゃ、そろそろ時間だしお開きにしよっか」
「「ばいばーい」」
皆手を振り返しながら食堂を後にして、優子とヴィスカが2人きりになる
「星魔が心配してたよ、悪いことをしたって」
「そんな! 悪いのは私であって!」
「違うよ、説明不足だったのは星魔が悪いでしょ? それに炭酸を進めたのも星魔だったろうし、あ、炭酸ていうのは10分休みの時の飲み物のことね」
「もっと私が柔軟に対応していれば、きっと上手くいったはずなのです」
「ヴィスカちゃんもっとリラックスリラックス、そんなに落ち込むことじゃないわ誰にだって失敗はあるんだもの次気を付ければいいの」
暗くなりそうなヴィスカの顔を見て優子は諭すのであった。
「さきほどはすみませんでした王子」
教室に戻るなりヴィスカは深々と頭を下げた
「なに気にしてはいないさ、我も説明不足だったことは否めない、しかしだ。何物にも作り手の思いがある、こうして自分たちの身に着けるものや飲食類には作り手がいることを忘れてはならない、謝るべきはその人たちへだろう、だがなに今回ばかりは大きな心で許してくれることを信じて次に生かすべきだと思わんか?」
一生懸命に首を縦に振り頷くヴィスカだった。
この後家に帰り茜にきつめの言葉でなじられたことはヴィスカが知る由もなかった。
ただのモブキャラですが、茜に同学年の友達いないのん?ってならないための・・・




