14 ブカディ・アルドVSアリーシャ・ヴィスカ
春の夕闇、風はまだ肌を突き刺すように寒く寂しい、だが寂しさを感じさせず、背後に迫る月を拒むかのように明るく太陽のような赤髪をなびかせながら歩く彼女、その赤髪に惑わされるかのように付き添うお調子者の少年は共に帰路についていた。
二人は生徒会でいつも遅く、家も隣同士なので一緒に帰ることが多い。
「昼間のあれ、見た?」
神妙な面持ちで言う茜の顔はいつも以上に凛々しく美しく見えた。
「ああ、星魔が呼んだあのカラスか、忘れたくても忘れられないよ」
修也は昼間のおちゃらけた態度を見せる素振りはなく、真剣と顔にでも書いてるかのようだった。
暫しの沈黙、茜は修也の次の言葉を待ったが、そのチャックのように閉ざされた口を開くことは無かった。
「ブードに聞いてもいい?」
「茜姉が聞きたいなら俺は止めないよ」
「そう、これが最後になるかもしれないわね」
「そんなことはないさ、俺は茜姉が許してくれるなら永遠に一緒さ」
「それは嫌よ、お風呂の中にまでついて来られたら困るもの」
「もうなんだよ、せっかく人がまじめに話に付き合ってあげたっていうのに、雰囲気ぶち壊しじゃないか」
「あんたはいつも笑いながら馬鹿言ってればいいの、シリアスなんて似合わないわ、せめてシリアルバーぐらいのお手軽さでいなさい」
茜はそういうと修也の両の頬っぺたをつまみ無理矢理笑顔を作らせた。
「こんなときにダジャレとは肝が据わってるね。じゃ、俺帰る」
修也の家の前まで来ると、塀の向こうから爆発音とともに花火でも打ち上がっているかのような眩い光が立ち上がった。
「何あれ・・・」
茜は不安を覚え即座に正門まで走っていく、修也も茜の後を追った。
門の中へと入り、長い一本道を通る最中にも爆発音と光は続き、家に近づくほどにその2つは激しくなるのと同時に、熱気さえ感じた。
「なにこれ」
玄関の前に広がっているはずの芝生には、無数のクレーターができていた。そしてその間近にはブードとヴィスカが相対していた。
ブードの周辺に広がる無数の幾何学的文様の数々、その全てから火球がヴィスカめがけて飛び込んでいく。
一方ヴィスカは鎧を付け大剣を握り、火球を躱し、手に持った大剣をブードめがけて振り下ろす、だがカラスの身には大剣など当たるはずもなく、ブードは子供でも弄ぶかのように躱していた。
ブードはそのまま上空へと飛び立ち、上空からまた無数の火球を放つ、数弾は地面へと着弾、また数弾はヴィスカの剣によって薙ぎ払われ、残りの火球はヴィスカの頭上で弾け煙幕を作った。
視界を塞がれたヴィスカは上空を見据え、そして目を閉じた。
精神を落ち着かせ、身動きひとつ取らずただ滑空時の空気を割く音を耳で、物体が近づいてくるにつれ、空気の圧力が増すのを肌で感じ取り。
「そこだ!」
ヴィスカはブードの位置を把握し、煙幕の中に大剣を突き刺した。
ブードは煙幕に紛れ、翼を魔法で剛腕に見えるほどの分厚い握りこぶしを作り出し、殴り掛かった!
大剣と羽がぶつかっただけだと言うのには相応しくない金属音が鳴り響いた。
二人は少し距離を取り次の一手の思考により場には静寂が訪れた。
「ちょっと何やってるのよ!」
茜による怒号のような一太刀を斬り込まれ静寂は砕け散った。
「おや、お帰りなさいませ茜様、こんな夜更けに帰宅とは少し危なくないでしょうか? お呼びしていただけましたらお迎えに上がりましたのに」
「お帰りなさい茜さん」
先ほどまでの戦闘は一体何だったのか、ブードとヴィスカは茜のほうへ意識を向けた。
「え、あ、ただいま」
拍子抜けとでも言わんばかりに茜はうろたえつつも言葉を返した。
「ささ、家の中へ入りましょうぞ、理恵様がお夕飯を作って待っておいでです」
「ちょ、ちょっと待って! ブードさっきあんたヴィスカちゃんと戦っていたんじゃないの? なんでそうも平然としていられるの? 二人は敵同士なんじゃないの?」
「はて? 何のことでしょうか? あぁ! 向こうの世界では確かに敵同士だったやもしれませんが、それは向こうでの話、我々は召王家をお守りする今や同志の中ですぞ、なぁ! ヴィスカよ!」
そう宣言するとブードはヴィスカの頭の上に腰を据えた。
「少しなれなれしいですが、まぁ目的は同じのようですのでブード様の言う通りでしょう、ブード様はあまり人間を好まれていないようですが、召王家を守るということだけに関して言えば信頼してよろしいかと」
呆気にとられた茜に代わって修也が割って入った。
「二人は随分と仲がいいんだな、さっきの戦いは一体何だったんだ?」
「おやお前は昼間の、まぁよくものこのこと私が守るこの地に足を踏み入れられたものです、いい機会だ、ここで私の力を見せつけてくれようか!」
「茜様そちらの方は?」
二者二様、昼間あったブードはあからさまに敵対意識をむき出しで、修也に翼を向ける。
ヴィスカは、警戒心はないものの、近所にいる知らないおじさんに声をかけられたときのような反応を示していた。
「初めましてヴィスカちゃん、俺は優子の双子の兄、仕道修也と言います、以後お見知りおきを」
修也はヴィスカの前にでてこれでもかというぐらい大仰に一礼して見せた。
「こ、こちらこそ初めまして、私サモンズ王国、近衛騎士副団長アリーシャ・ヴィスカと申します、先日は優子様にお世話していただき、感謝いたしております」
ヴィスカは修也に対して深々と頭を下げた。
「俺じゃなくて優子に直接言ってあげてよ、まぁあんまりかしこまられすぎると優子は嬉しくないだろうから、なるべく砕けた言葉でね」
「砕けた言葉・・・ですか?」
ヴィスカは発した言葉の行く末を見て、両手で叩いた!
「いやいや、物理的な意味じゃなくてさ、かしこまらずに、そうもっとフレンドリーに!」
「な、なるほど。ご忠告感謝します」
本当に分かっているのかはヴィスカの脳内を物理的に探ってみないとわかりそうもない。
「先ほどから私を無視しおってからに、こうなれば実力でわからせるしかないようだな、修也!」
蚊帳の外が気に食わなかったのかブードは修也に戦いを挑んだ。
「お、やる気だねぇブード、いいぜかかってこい」
修也はブードの前に躍り出て挑発した。
予備動作もなく宙に突如、幾何学的文様が現れ修也を囲い、縦横無尽に矢じりのような鋭利な岩が射出された。
それを自前の身体能力だけで躱す修也。
「おいおい本気かよ」
修也の避けた岩は、地面へと被弾したのだが、そのどれもがクレーターを作るほどの威力だった。
そして合コンかのようにまた、ブードと修也は見合った。
修也は次の一手が来るのを待ち構え、ブードは反撃に備えたのだが。
「おや、どうしたのだ反撃はしてこないのか?」
修也はその言葉に返すかのように茜を見つめた。
「今の攻撃をかわせるのならひとまずは及第点でしょう、あなたに茜様を任せても大丈夫そうだ」
先ほどまでの怒髪天はなんだったのだろうか、一回の攻撃で満足してしまったブードに拍子抜けな一行。
「も、もう、終わりか?」
「ああ、本気を出せない貴様にこれ以上しても無意味だ。茜様と共にいたから少し腕試しをしたくなっただけだ、すまない」
突然畏まられ、どう反応していいものかわからなくなる修也。
「そうだ、ブードお昼の話、聞いてもいいかしら?」
各々の状況を見据え茜はここしかないとでも言わんばかりに話を切り出した。
「その話なのですが...口止めをされまして、私目からは何も言えないのです、申し訳ない」
「会ったんだ」
「はい」
「そう、あー! お腹すいた! 早くお母さんのお夕飯が食べたいわ! 修也も一緒にどう?」
一瞬の空気の鈍化、それをもたらしたのも、それを壊したのも茜だ。
彼女の指先から掴みかけた真実が地平線の彼方へと姿を消した。
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