【中編】シンデレラ症候群の僕とお姫様な彼女
※注意
こちらの話は【中編】となります。
前回のお話をお読みでない方は話の内容がついていけない部分がありますので、
是非前話からお読みいただけると嬉しいです。
【前編】は、よしのみのマイページ及び下記にリンクを掲載致します。
https://ncode.syosetu.com/n9676hf/
「本当に関西に行くの?」
仲直りをした僕たちだったが、距離感が近い。
お店に入店をした時は、個室でテーブルを挟んでいたはずなのに何故か今は隣に先輩がいる。
しかも肩と肩がくっつきそうなぐらいの距離で僕の方を向かれると、心臓の音がどんどん強くなってしまう。
(吐息が聞こえるような距離だよ、ここで手を出したら戻ったばかりの距離が〜!)
1人悶々としていることを知ってか知らずか先輩は、僕の態度を誤魔化していると勘違いをして更に、ズイっと顔を近づけてくる。
「私、真面目に聞いているんだけど?」
「わかってます、わかってますけど顔が近い…」
「じゃあ早く答えて」
なんだろう。自分の気持ちを伝えて吹っ切れたのか、先輩には照れるという感情がなくなったように感じる。
気になってる女性と至近距離で話ができるのは嬉しいこと。
でも、この距離感で照れないのは男として見られていない気もしてなんとも言えない気持ちになってしまう。
ただまあ今は先輩の質問に答えないとそろそろ怒られそうだ。
「えっと、まだ正式に決定じゃないです」
「まだ?」
「代表と話をしたんですけど、適当に答えたので流れると思いますよ」
「ふ〜ん」
本当かな〜と言いたげな表情を見せながら、一応納得したのか近づけていた顔を元に戻す先輩。ただ不満ありありです!という態度はそのままのようで眉間に皺を寄せている。
「僕に関西に行ってほしくないですか?」
意地悪な質問かとも思ったが、気になって聞いてみると目を見開いて力強く肯定してきた。
「当たり前だよ!後輩くんが関西に行ったら会えなくなるんだよ…?」
「ずっと会えないわけでは…」
「今までのように毎日会えないしお休みの日も簡単には会えないんだよ?? 後輩くんはそれでもいいの?」
えっと…これは遠回しに告白されているのかな?
先輩が僕に好意を持っていると勘違いしてもいいのだろうか?
しかもlikeじゃなくてLoveの方で。
確かに今までの先輩の対応から好意を持っているなって思うシーンはあったけども。ずっと深く考えるのは違かった時に辛くなるからやめていた。
…いや、今日も考えるのはやめよう。今はまだこのままでいい。
「いやですよ?だから会社側からNGが出るように自分の言葉全開で答えたんですから」
「そうなんだね、ごめんね いきなり声を荒げちゃって…
後輩くんの頑張りが認められたことなのに素直に応援できてなかったね」
僕が冷静に答えていると先輩は落ち着いたのかテンションダウンして反省モードに入ってしまったみたいだ。
「あれま、テンションの上げ下げが大変ですね 酔っちゃいました?」
先輩の悲しむ顔は見たくないのでおちゃらけてイジってみたら口元だけ少し笑みを浮かべてくれた。
(でもやっぱり先輩はお酒飲むと幼くなるな〜)
以前にも感じていたが先輩はお酒を飲むと幼くなる。特に感情がいつも以上に素直に出るためか小学校低学年くらいの印象を与える。
まあ可愛いから良いと思うんだけどね。
「ほんとだね、酔っちゃったのかも…」
「今日はいろいろありましたからね、そろそろ帰りましょうか?」
「うん、そうする」
「あ、先輩」
「…?」
儚い笑みを浮かべさせたまま帰すのは僕の信条に反する。
特に大切な人には笑顔でいてほしいからこそ最後は笑顔で終わろう。
「先輩が離れたくないって思ってくれたのが僕的に1番嬉しいです」
「〜〜〜〜〜〜!もうっ!」
真っ赤になって照れた先輩が、ポコポコと僕の胸を叩いてくるが手加減をしてくれて全く痛くない。そんな先輩の様子を見て、
(良かった、少しいつもの調子に戻ってくれた)
安心した。この時の僕たちは関西に行くかどうかは忘れていたんだ。
もっというと、心のどこかで僕(後輩くん)が行くわけないよ、と現実逃避をしていた。
でもやっぱり現実はそう願った通りに行くわけでもなく、僕は1ヶ月後に関西支社への配属が正式に決まった。
☆
『おめでとう、正式に関西の部署長だ』
『…ありがとうございます』
現実は甘くないと知った日のお昼。どんよりしながら僕と先輩はランチをしていた。
「決まっちゃったね」
「決まっちゃいましたね」
「「ハア〜」」
たくさんやらないといけないことができた。引っ越しに手続きにあっちの支社長と社員とのやりとり。どれを考えても憂鬱だ…。
せっかく地元から上京をしてきたというのに半年経たずにさらに西へ行くことになってしまった。
でもそれ以上に心にきているのが先輩と離れること。
つい先日、仲直りをしたばっかりだというのに今度は物理的な距離で離れてしまう。
「…なんで後輩くんなの〜」
隣に目線を向けると先輩も同じ気持ちなのだろう。ため息をつきながらどんよりとしたオーラを溢れ出している。
そんな先輩を見ていると、強制的にポジティブスイッチが入ってきた。
(うん、でもいつまでも後悔しててもダメだよね!残り少ないかもしれないこの時間の楽しまないと!)
そう思ったら即行動。笑顔を作って先輩に話しかけるとしよう。
「せ〜んぱい!僕が関西に行っても仲良くしてくれますか?」
絶対にイエスを言ってくれるのがわかっている質問をあえて問いかけてみる。
そしたら案の定、
さっきまでは涙目になって悲しいオーラ全開にしていた先輩の表情が変化した。
バッと僕の方を向いたかと思いきや、キッと目を釣り上げて心外です!と言いたげな態度になって、
「当たり前だよっ!毎日、連絡するよ!」
少し怒気の感情を含めて伝えてきてくれた。怒られているのだが、即否定してくれるほど思われていることに嬉しくなって顔が緩んでしまう。
「嬉しいです、僕も連絡しますね」
「返信来なかったら関西に乗り込みに行くから」
「それは怖い」
視線を合わせてこんな会話をしていると、自然と僕と先輩は笑みが溢れた。
うん、やっぱり笑った顔が1番可愛い。
先輩の笑顔を見つめていたら、ふと思いついたかのように考え込む先輩。
どうしたんだろう?
「先輩?」
反応がない。しかもどんどんと満開の笑顔に変わっていってる。
と思いきや今度は難しい顔。時折こっちを見ては笑顔と渋い顔で唸るのを交互にしている。
「先輩?」
1人百面相をしている女性を見ると流石に心配するので声をかけても無視。
「え、僕何かしました?確かに関西の件はしたけど」
「う〜〜ん」
唸り続けている先輩は僕の言葉を無視していたが、ようやく考えが落ち着いたのか口を開いた。
「ん!大丈夫だよ!良いこと思いつきそうだなって思っただけ!」
「良いこと…ですか?」
「うん!でもまだ秘密!実現できるかわからないし それよりも後輩くん今日は一緒に帰れる?」
この話はもうおしまいと言いたげに話を切ってくるので、僕もそれ以上は追求をしないようにする。
まあ僕が関わってくる話みたいだからそのうち教えてくれるでしょ。
「今日ですか?すみません、夜は杉井と餃子を食べに行く約束があるんです…」
「杉井くんか〜それじゃあ仕方ない!楽しんできてね?」
「はい、連絡はしますね」
そのあとは2人とも平常運転でようやくご飯を食べ始めたとさ。
☆
餃子のお供に人は何を頼むだろうか?
ご飯?ラーメン?否!お酒である!!!
という杉井(僕の同期でガタイが良い)の持論から餃子のお店に来たわけである。
先輩の方々と一緒にいることが多いと思われがちな僕だが、意外にも同期と交流をしていることも多い。まあ内定者期間中に交流をしていたからなんだけど。
ただ杉井に限らず、お酒の場に僕を呼ぶ時は決まって愚痴を聞いてほしいというお願いばかりなんだけどね。
「それでさ〜!うちの上司がコミュ障で仕事の割り振りおかしいんだよ!」
「はいはい、そうなのね」
(愚痴が溜まってんな〜)
開始早々アクセル全開で不満が爆発している杉井の話を半分程度に聞き流しながら先輩に連絡をする。
『餃子美味しいですよ』
『え〜いいな〜』
『じゃあ、今度一緒に行きますか??』
『行こ行こ!』
何気なく話した内容からご飯に行く約束ができて顔がニヤけてしまう。そんな僕の顔を見て杉井が見咎めてくる。
「おい〜聞いているのかよ〜」
「ごめんごめん、聞いているよ」
流石に人の話し中にスマホをいじるのは失礼だよな、と思い、しまっていると杉井から爆弾を投げつけられた。
「どうせ、上野さんと連絡してたんだろ? いいよな〜お前には毎日会える彼女がいて」
「え、彼女じゃないよ?」
「は?」
「え?」
信じられないという顔をして固まった杉井。いや、間違ったこと言ってないよな。
お互いに好意を持っているかもしれないけど告白してないし。
1人で納得するように頷いていると再起動した杉井がマシンガンみたく言葉を飛ばしてきた。
「え、じゃあ何。付き合ってないのに毎日一緒にご飯食べているの?」
「お昼だけね」
「しかも帰りも一緒に帰ったり」
「合わせてるからね」
「付き合ってないの?」
「先輩が僕のこと好きかわからないじゃん」
「…はあ?」
こいつマジかという目線をこちらに向けてくる。
小さな声で「チキンじゃなくてヒヨコじゃないか、こいつ」って言わないでもらえるかな。聞こえてるから。
チキンなのは認めるけどヒヨコまではいかないし!
「もうさ、聞くけどお前は上野さんのこと好きじゃないの?」
「…」
「はぐらかすなよ」
ここで嘘をついたら自分の気持ちにも嘘をつくことになる。
杉井が言っているように僕は自分の気持ちに気づいている。
でも今まで言葉に出すのが怖かった。言葉に出すことで認めてしまうと歯止めが効かなくなると思ったから。
恋愛をするとずっと裏切られてきた。相手のことを思ってきたつもりだったけど通じ合えていなかったことが悲しくなった。
でもよくよく思い出すと辛いことばかりだけじゃなかったんだよ。
楽しかった思い出もしっかりと思い出すことができる。恋愛は辛いだけじゃない。
それに先輩と一緒に過ごした時間は他の人とは違って特別だったんだ。
楽しいだけじゃない。心が落ち着いた。
近くにいたいと本気で思った。
うん。もう自分の気持ちを誤魔化すのはやめよう。
「好きだよ」
「そっか」
僕の返答を聞いて先程の呆れた表情から一転、大人が子どもを見るかのような優しい表情に変わって頷いてくれる。
やっぱり、こいつ良い奴だな。杉井という人物の受け入れる力が本当に素敵だと思っている。そうでなければ2人でご飯には来ないよ。
「さて、じゃあお前はこれからどうしたいの? 関西に行くこと決まったんだろ?」
これからのことを聞いてくれる優しさにまた涙が出そうになる。
僕も酔ってきたかな。
「そうだね、現状維持は良くないって思ってる」
「そうだな、あっちの気持ちにも本当は気づいてるんだろ?」
「…うん」
「最終的にはお前のことだけどさ ここでヘタレて行動を起こさずに関西に行ったら俺は絶交するからな」
厳しいな。でも短い付き合いの癖によく僕のことが分かっている。
先輩の気持ちに向き合っているようで恋愛の面では見ないフリをしていること。
見ないフリをしているから弱気になって告白をしない、という選択肢を作っていること。
ヒヨコになって先輩の優しさに甘え続けていた僕に行動を起こさせようとする言葉。
ほんとどうしようもなく優しい奴だよ。
「絶交はキツイな…うん、ありがとう やっと勇気が出そうだよ」
「…僕は先輩に告白する」
「そっか、頑張れよ」
そうと決まったら弱気になる前に行動を起こさないとだ。
『先輩、明日の夜お時間ありますか?』
『うん!あるよ〜』
『じゃあ僕に時間をください』
☆
やばい、昨日話をしている中で「告白をする」ことを決めたのは良いのだけど、実際にしようと考えると、めちゃくちゃ緊張する。
シチュエーションどうしようか、告白の言葉はどうしようかと考えたら頭が混乱してくる。
検索履歴も「告白シチュエーション」「ロマンチック」とか若いよ僕!
(よくよく考えたら今まで自分から告白をした経験ってほとんどないな)
いつも相手の方から場を整えてくれていた。
(あの子達はみんなこんな気持ちを抱きながら当日を迎えていたんだ、本当にすごい…)
今更ながらに元カノ達への感謝と尊敬の気持ちが出てきて、改めて自分のヒヨコぶりが身に染みてしまう。
(いやいや、後悔すると分かっているのに行動を起こさない方がどうしようもないチキンだ)
そう、僕は先輩に本当の気持ちを伝えずに離れてしまうことに一番の恐怖を持っている。
だから行動することは悪いことじゃない。
ヘタれるな!僕!
うん、まだ朝なんだよね。…夜まで持つかな。
☆
今日に限って…!と思う時ありませんか?
「おはよう、後輩くん!」
改札を出て歩いていると、先輩が声をかけてきた。
なんかルンルンしてる様子からどことなく浮かれている?感じかな、
今にもスキップでもしそうな表情と雰囲気に、つい僕も笑顔になってしまう。
「おはようございます、先輩」
「駅で後輩くんと会うなんて珍しいよね?」
「そうですね、僕はいつももう少し遅いですからね」
「だよね?今日はどうしたの?もしかして私に会いたくなっちゃった?」
ニヤニヤしながら聞いてくる先輩。
いつもよりもテンションが高めだからか小悪魔な表情を通り越して悪魔のような笑みに変わっている。
これはずっとイジられ続けるダメな流れだ!と直感的に思った。
というか僕がこんなに緊張しているのに先輩が余裕そうなのが気に食わない。
(いいや、告白の予行練習だと思って素直に伝えてやろう)
そう思った僕は先輩の反応を想像してにやけそうになる口元に力を入れて、少し意識してしまうような言葉を選ぶ。
「そうですよ、どんな風に先輩に僕の気持ちを伝えようかずっと考えてて眠れなかったんです」
「〜〜〜〜〜〜っ」
僕が素直に答えたのが珍しかったのか、それとも不意打ちで告白を匂わせる言葉を伝えられた為か、それとも両方か。急激に体温が上がった先輩は耳まで赤くなって、口を強く結んで俯く。
人目を気にしなくていいのであれば、今すぐにでも蹲りたいとわかるような体勢に満足する。
(大人気ないけど、これで少しでも意識してくれたら嬉しいな)
「先輩どうしたんですか?大丈夫ですか?」
追い討ちをかけた僕に対して先輩は赤くなった顔をあげてキッと可愛い顔で睨みつけてきた。
その顔には、誰のせいよ!誰の!って書いてある気がした。
「後輩くん、これはずるいと思うな!私だってあまり意識しないようにって頑張ってたのに不意打ちは!」
「意識してくれていて嬉しいですよ 夜が楽しみですね、先輩っ!」
「もお〜〜〜!絶対に今日のお仕事集中できないよ〜!!」
先輩の困った声を聞きながら仲良く歩いていく僕達でした。
☆
さて行くか。
全く集中のできない仕事も無事に?終わった(心ここにあらずの様子が何度かあったために心配をされた)ので、先輩を迎えに行こうと準備を整えていると、
ピロンッ
スマホが鳴った。杉井からだ。こんな時になんだよ、と思いつつ内容を確認すると、
『応援してる、頑張ってこい』…あいつ、ズルいな。
(うん、頑張ってくるよ ありがとう)
ダメ押しで心を押された僕は先輩のところへ向かった。
向かったんだけど、これはちょっと予想外だな〜。
「カナちゃん、がんばれ!」
「うんうん、見た目完璧!大丈夫だよ!」
「うう〜、ほんとう?変なところない?」
「ないない!心配なら一緒に確認しに行こ!」
え、何この集団は。
先輩を取り囲んで女性陣がわちゃわちゃしている。なんか一大イベントが始まる前みたいな感じで盛り上がっているからあまり近づきたくないな。
でも先輩を主役にしているみたいだから、無視をするわけにもいかないよね。
(なんか肩の力抜けるな〜)
違う意味で戦地に赴くばりの覚悟を持って先輩を取り囲む集団に近づくと、もう1人の主役がきたとばかりに悲鳴が上がる。
「あ!後輩くんきた!」
「え〜!迎えにくるなんて〜かわいいじゃん!」
女性陣の圧にもう負けそう、と思いながら先輩を迎えにきたことを伝える。
「ごめんね〜、かなが今最終チェック中だからもう少し待ってね」
「最終チェック?」
「そうなの、後輩くん心の準備しといてね めちゃくちゃ可愛いよっ!」
「それは楽しみです」
なるほど、僕との約束のために改めて準備をしてくれているのか。ちょっとどころではなくとても嬉しい。
緩みそうになる顔を全力で阻止して冷静を装うとしていると、なんだか温かい目で見られていることに気づく。
「後輩くんも分かりやすいね」
「あれ、顔に出てましたか?」
僕がそう聞くと、先輩方は皆一様に頷いてきた。
そっか、そんなに分かりやすかったのか。先輩と出会ってから自分の感情が戻ってきている気がして嬉しかったりする。
(やっぱり先輩は特別な人なんだな)
「ねえ、後輩くん」
「はい」
僕が自分で先輩に対しての想いを再確認していると、1人の先輩が優しい目で見つめてきた。
先程までのふざけた雰囲気はカケラもなく、姉が大切な妹の成長を見守るかのような表情で僕に一つのお願いをしてきた。
「カナちゃんのことよろしくね」
(ああ、先輩はこの人達にとっても大切な友人なんだな)
今まで先輩が“繋がり”を大切にしてこの方々と接してきたのかを垣間見た気がした。
「任せてくださいとは自信がなくて言えません でも大切にすることと努力を続けることは約束します」
真剣に向き合ってくれている。だから僕も素直な本心を伝えて向き合おうと思った。
「うん、応援してる 告白もその後もね」
微笑みかけてくれた表情は、お姉ちゃんがいたらこんな方々だったら良かったなって思わせてくれるほどのものだった。
☆
数分後、
「お、お待たせ…」
先輩方との約束をし終えたタイミングで準備が終わり先輩が戻ってきた。
「あ、おかえ…ッ」
振り返りながら先輩の姿を確認しようと思ったら固まってしまった。
最初は恥ずかしかったのかモジモジしながら照れていた先輩だったが、続く言葉が来ないことに不思議に思ったのか顔を見上げて、石像のように固まっている僕を見た。
「…」
でもそんな先輩を見ても体は動かない。
だって!
(え、なに?どうしたの?!朝と全然違うじゃん!??)
そう、先輩は髪型から服装、お化粧まで全てが変わっていた。
仕事モードの格好からプライベートの先輩へ。
朝はストレートだった髪型が今は、アイロンを使ったのかふんわりカールがかかり、
服装もスーツ姿だったのが藍色のロングワンピースに黄色のカーディガンを羽織っている。
お化粧もこの前、ネモフィラを見に行った時のような可愛いよりも綺麗が強調される形に。
まさに今から夜のデートに行くのにピッタシの姿に変わっていた。
「後輩くん、どうかな?」
「めちゃくちゃ可愛いです」
あまりの可愛さにさっきまで落ち着いていた心臓がまた活発化してきてしまった。
心臓の音が近くにいる人達に聞こえてしまうんではないかと思うぐらいうるさい。
「そっか…良かった」
似合っていると言われたことで安心したのかホッとして息を整えている仕草でさえも綺麗だと感じる。まさに今の先輩は大人の女性という印象を与えてきた。
「(やばい、あの2人私たちのこと忘れてるよ)」
「(自然と2人の空間作ってるもんね)」
「(うん、私たちの心の平穏のためにも早く行かせよう)」
視界の端っこで先輩方が何かこそこそとうち合わせをしている気もするけど、そんなことはどうでもいい。
今は先輩と合っている目を離したくない…
「はいはい、お二人さん!準備できたなら早く行こうね!」
うん、簡単に離れたね。強制的に離されたことでようやく先輩方が呆れたように僕と先輩を見ていて、ここが会社だということに気づく。
「2人の空間を作りたいなら早くお外に出よう!」
呆れた女性陣は僕と先輩を早く行かせようとエレベーターまで背中を押して押し出そうとしてきた。
その中でも皆さんは僕には温かい笑みを、先輩には逃げるなよ!と真剣な表情で送り出してくれた。
「後輩くん頑張ってね!お姉さん達は君を応援しているよ!」
「あ、ありがとうございます!」
「かな!今度は逃げちゃダメだよ!」
「う、うん!」
「「「行ってらっしゃい!」」」
☆
「追い出されちゃいましたね」
「そうだね、あの子達ひどいな〜」
2人で苦笑いをしながら駅までの道を歩いている。先輩の表情は苦いが言葉には棘はない。
あの先輩方が本当に上野先輩のことを思って行動してくれているのが分かっているから。
でもちょっと疑問が出てくる。
「なんで先輩は取り囲まれていたんですか?」
「えッ?え〜と」
「?」
ちょっと失敗をしたのか舌をぺろっと出してドジしちゃいました感を演出してくる先輩。
「あのね、朝のやりとりを同期に見られたらしくて後輩くんと別れた後に問い詰められたんだよね それでぽろっと今日のことを話したら盛り上がっちゃって」
「あ〜なるほど、そういうことだったんですね」
「ごめんね、みんなに知られることになって」
「いえいえ、知られて困ることもなかったですし応援もされましたから」
ほんと困ることはない。逆に僕は恵まれているとさえ思っている。
出会って数ヶ月の同期や先輩方に背中を押されているのだから。
ここまで応援されているのだから期待には応えよう。
「さ、先輩 今日は少し良いものを食べましょう!」
「うん!楽しみだよ!」
さあ!これからが本番だ!!
電車で移動すること10分程度。僕たちは駅名にもなっている某公園が有名な場所に来た。
昼間は学生や小さな子ども連れがいて賑やかな雰囲気だが、夜になったら一転して静かな雰囲気になるため大切な話をするにはもってこいのロケーションになる。
…とネットには書いてあった。
「へえ〜この辺って静かなんだね〜」
キョロキョロしながら隣を歩く先輩がそう言っているのだからネット情報は正しかった!
不安要素だったものが解決したことで安心をする僕。
「さあ先輩、ご飯を食べる前に見せたい場所があるんです」
「見せたい場所?」
不思議そうに首を傾げる先輩に向かって僕は「内緒」といたずらっ子の笑みで答えた。
歩くこと数分。噴水を中心にして円を描く形になっている広場にやってきた。
「噴水?」
見せたかったのは、これ?と不思議がる先輩。半分正解とだけ答えて僕はあたりを見渡す。
(よし、周囲に人はいない ラッキー)
大切な話をする時に、聞かれていないと分かっていても恥ずかしい気持ちは出てくる。
だから今の僕たちしかいない空間は絶好のチャンスだった。
だから先輩を誘導して、噴水が見えるように設置されているベンチに座ってもらう。
時計を確認すると19時数分前。
(ジャストタイミング)
僕は先輩の隣に座ると、正面から顔が見れるように体勢を整えた。
そして深呼吸をして始まりの言葉を先輩に伝える。
「先輩、大切なお話があります」
「は、ひあ」
いきなり雰囲気を変えたので驚いたのであろう、声が裏返ったことには今はツッコミを入れずに話を続ける。
「実は僕ってサプライズが苦手なんです だから女性が喜ぶようなことってあまりしたことがないんですよね」
「?後輩くん、どうしたの?」
「でも僕なりに考えて今日、この光景を先輩と見られたら最幸だなと思ったんです」
そういうと、僕は手をまっすぐに噴水に向ける。手につられて先輩が顔を向けると19時、数秒前。
3、2、1…
心の中のカウントダウンが0になったタイミングで噴水がライトアップを始めた!
虹色に光るライトに灯されて一段と高く高く上に水を登らせる噴水。
空中で細かく水滴に変わり、さらにライトに灯されてキラキラと輝く様子は幻想的とも表現することができる。
「…綺麗」
周囲には僕たちしかいないからこそ、先輩のためだけに用意されたかのようにも感じる。
もしかしたらそう考えているかもしれない先輩は口を開けながら幻想的な噴水の様子を見ていた。
でもずっと見ていられても困る。
「花奈さん」
「え、」
僕が先輩のことを初めて名前で呼んだから反応が早かった。
振り向いた先輩を見てやっぱり「好きだ」という気持ちが溢れてくる。
溢れてくる感情に身を任せて、先輩に伝われっ!と思いながら言葉を贈った。
先輩に出会ったからこそ思い出した優しい笑みと共に。
「好きです」
「ッツ!」
目を見開いて驚いている花奈さんを見て再度、僕は想いを伝える。
「花奈さんのことが好きです」
「…本当に?」
2回伝えられても信じられないと確認してくる先輩。だが体は正直で、顔が急激に完熟トマトのように赤くなていく。
そんな赤くなった顔で恐る恐る上目遣いをしてくる姿を見て、可愛いなと思いながら
僕はさらに想いを言葉に乗せて伝えていく。
「本当ですよ、僕は上野花奈さんのことが好きです、大好きです」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!」
先輩の赤くなった頬に涙が伝っていく。
「花奈さんの涙を見るのは2回目ですね、今回は嬉し涙ですか?」
前回見た涙は仲直りをした時だった。あの時は心の距離が離れてしまった時で先輩の涙を見たら心が締め付けられるように痛かった。
でも今回は、
「…嬉しい 後輩くんが私のこと好きだったらいいなってずっと思ってた、ずっと思ってたの」
ポジティブな涙。それは臆病だった僕たちがやっと想いを確かめあったからこそ出てきた涙だった。
続けて僕は2人の関係を新しいものに変える言葉を贈る。
「花奈さん、僕の彼女になってくれませんか?」
「……………はいっ!こちらこそよろしくおねがします!」
その時に見た表情は僕だけが見ることのできる、花奈さんの隣にいることのできた人にしか見れない今までで1番素敵な笑顔だった。
女性の泣きながら見せる花咲くように笑みって魅力的だよね?
☆
「後輩くんが彼氏か〜」
「突然なんですか」
告白を終えて無事に?恋人になることができた僕と先輩改め花奈さんは、公園の隣にあるレストランに入って少し遅めのディナーをしていた。
「なんか不思議な感覚だな〜って思って」
ニコニコしながら言っていることから嬉しい気持ちが溢れているのかなと感じる。
でもまあ僕も同じ気持ちになっているんだけど。
「初対面がアレでしたし、花奈さんは素敵すぎて高嶺の花でしたから」
「え〜?何よそれ〜、私の方こそ反応が薄いわ、全然手を出してこないから興味ないのかなって自信持てなかったんだよ?」
え、そうだったの?アプローチをされた記憶がないな〜と過去を振り返ってみるが記憶がない。
「その顔は覚えがないって感じだな〜」
「だってないんですもん」
「心外だな〜私がどれだけ後輩くんと2人でいられるように頑張ったと思う?」
あ、確かに!お昼の時に2人でご飯を食べたり、席を隣にしたり、帰宅を一緒にしたりとかなりの頻度で一緒にいた。
もしかしてあれが独占欲だったりアプローチだったのか!
だから先輩方は僕たちの方を見て笑っていたのか!
「懐かれたのかな〜って思ってました」
今やっと腑に落ちた。
「ずっと行動をしてくれてありがとうございました」
花奈さんはずっと僕に行動で伝えてくれたんだ。申し訳ない気持ちが出てくる。
「ん〜ん!良いの!今一緒にいられるのが嬉しいよ」
心外だ〜って表情から今は優しい笑みに変わって気にしていないと言ってくれるが、
それでは僕の気が治らない。
「花奈さん」
「どうしたの?」
「花奈さんのこと幸せにします」
「〜〜っもう!後輩くんのそういうところズルイよ!!」
また顔が真っ赤になるほど照れた先輩を見て嬉しくなる。ニコニコし出した僕を見てからかわれたと思ったのか先輩は口を風船のように膨らませた。
でも何かを思い付いたのか先程の僕の言葉を修正してきた。
「一方が幸せになるんじゃないよ? 2人で、だよ?」
あ〜あ、ほんとずるい。
付き合いはじまたばかりの僕たちだけど、僕はずっと先輩に惚れていくんだろうな〜と笑みが溢れる。
やっぱり先輩はお姫様じゃなくて小悪魔が似合う。
後編に続く
やっとお付き合いを始めた僕と花奈さん。
でも後輩くんの関西行きが決まっていることから早速の遠距離決定?
いや、そんなことでは終わらない!
先輩の行動力が!後輩くんの覚悟が!未来を変えていく!
次回、後編
「本当に大切な人にあったら変われるよ」
−−
ここまでお読みいただきありがとうございます!
後編は来週、10月15日掲載予定!
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