ラリアの痣
オススメの菓子を差し出されているはず…と、クラリッサは軽く混乱した。
キラキラと輝く色とりどりのそれは宝石の様に美しく、これから磨いて加工する原石だと言われれば納得する見目だったからだ。
試しに一つ摘むとやはり固い。
しばし摘まんだそれを観察したが、やはりキレイな石にしか見えなかった。
それでもラリアが勇気を出して勧めてくれたのだと口に放り込む。
シャリ。
心地よい食感の後、口いっぱいに優しい甘さが広がる。
そう言えば団員たちが話していたのを聞いた気がする。
なんでも、とても美しく珍しい食感の菓子が流行っているが手に入らない、と。
恋人や婚約者にねだられ困っている団員が何人もいて、大変だなーと聞き流していた。
「これ、もしかしてなかなか手に入らないっていう菓子…?」
クラリッサの百面相につい笑ってしまっていたラリアはハッとしコクコクと頷いた。
「これは確かにスゴい!沢山の人が欲しくなるのも分かるわ。」
その表情に、ラリアは嬉しそうにするクラリッサの笑顔をもっと見たくなってしまった。
「他にコレも見せたいの…」
リサに合図を送ると重そうな大きなカーテンがゆっくりと開かれる。
クラリッサの眼前に広がるのは美しい森と離れた場所の湖だった。
「外から来た時にご覧になった湖は…あの湖をここにあるかのようにしているんです。」
カーテンが開かれたこの部屋は最高の景観で、お茶会がこの場所で開かれたのは、ラリアにとって最大のもてなしだからに他ならない。
「えっと…この城が見えないのは幻影魔導によるものなのです。」
窓も大きく開けられ、優しく通り抜ける風が心地良い。
ラリアは静かに景色を眺めながら話しだした。
「幻影魔導は物質にかけられる魔導。我が家にはその魔道具があるのです。その他にもこの城には様々なイトウ家や聖者のモノが残っています。」
「奥様!?」
リサが慌てて静止に入る。
しかしラリアは手の平でリサの静止を止めた。
「きっと主人もクラリスのご主人に話しているわ。賢者様がいらしたもの…。」
「賢者…?ヒジリ様に、何か伝える伝承があるのですか?」
聞いて良い話なのか戸惑いもあったが国の魔法騎士団を預かる身である。
思わず仕事スイッチが入ってしまった。
魔導により隠されたこの城に残されたモノ。
魔法、魔導に関しての情報は可能な限り耳にしておきたい。
「あ…クラリス…、その…ごめ…なさ…」
雰囲気が変わったクラリッサに恐怖を覚えたのか怯えた声が返ってきた。
「!? あ!ごめん!ラリア、怖かった!?ごめんね!ちょっと団長モードになってたわよね?つい…」
ハッと我に返り謝るとラリアも慌てたらしい。
「ううん!怖がってごめんなさいっ!その、多分ご主人も聞くだろう話だから、クラリスには話しておくべきな気がして…!あのっ…」
そんなお互いが慌てていた時に突風が吹いた。
普段のラリアならどんな不意の風にもヴェールを飛ばされる事はない。
しかし、この時は違った。
帽子は抑えられたがヴェールがめくれ上がってしまったのだ。
「「!!!」」
「…見…ました、か?」
ラリアの素顔にはおでこの右半分から鼻、頬にかけて痣がある。
左の頬から顎にかけても、だ。
顔の両側にあるのでヴェールが捲れれば見えてしまう。
折角親しくなれそうだったのに、と絶望感が体を震わせた。
痣を見られて良かったことなど一度もない。
リサでさえ、初めて目にした時は小さく息を飲んで驚いていた。
そして、慣れるまでどうしてもぎこちなさがあったのだ。
一方クラリッサは別の意味で衝撃を受けていた。
「ラリア……ものすごく魔力が多いのね!」
「え?」「は?」
思わずリサまで声が漏れる。
ラリアの痣は濃いシミのような痣だ。
色白なラリアの痣はひときわ濃く見え、目立つ。
しかしクラリッサはこの痣の原因を知っていた。
下位兵士出身者の騎士に、稀にラリアのような痣を持つ者がいるからだ。
「ラリア、使いこなせないくらい魔力があるのね!」
目をキラキラさせてそう言う。
「え…なぜ…私の魔力の量を…?」
思いもよらぬ反応に唖然とするラリア。
優しく微笑みクラリッサは説明した。
ラリアの痣は魔力量が多く宿りすぎている者に見られるものなのだ、と。
下位兵士は貴族出身の多い騎士団と違い、基本魔力の多くない平民で構成されている。
しかし痣を持つものは軒並み揃って貴族並の魔力を持っていた。
ただ、殆どの痣持ちが魔力を扱いきれず暴走させたり魔力量に見合った魔法を使えない経験があり、何とかしたいと魔法兵士団に志願してくるのだ。
そして、その多くは騎士となる。
「魔力の低い血筋なのに飛び抜けた魔力を持つと肌に痣として出てきちゃうみたいなの。見覚えあるからチラッと見えただけでも分かったのよ。」
「…確かに私の生家は子爵家で…魔力が低めの家で…なのに私は大量の魔力持ちですが…。」
父と同じ珍しい髪色でなければ母の浮気を疑ったと父親にハッキリ言われるほど、一人だけずば抜けて魔力が多かった。
しかし、持て余すほどある魔力は禄に扱えず魔法として上手く発動させられない。
魔力が多くとも何の意味も救いも無かったのだ。
禄に魔法も使えない上に痣持ちの役立たずだと虐げられ、長年魔力の多い嫁を求めていたこの家に売られるように嫁がされたのはまだ15の時であった。
レイドール伯爵とラリアは17ほどの年の差。
結果として幸せに暮らしているが嫁いできた時は絶望感でいっぱいだった。
「なぜ研究者でもない貴女がそんな事ご存知なのですか?」
リサが訝しげに尋ねるのはもっともだろう。
世に知られている話ではない。
「一応知り合いにその研究をしてる人もいるのよ。あと下位兵士が騎士になる時の魔力検査には立ち合うからね。痣持ちは皆平民でもとんでもない魔力量なの。顔にあるのは不運だけど…悪いものじゃないわ。それにきっとヒジリ様が消してくれる!」
グッと親指を立ててニカッと笑ってみせる。
それを見て、おずおずとラリアもクラリッサを真似て親指を立てて見せた。
「クラリス…あの…お茶会、まだ一緒にしてくれる?」
ラリアの中では精一杯の勇気とお誘いの言葉だ。
痣を気味悪がらないなんて、半信半疑だった。
「え?まだ始まったトコなのに当然でしょ?」
既にクラリッサの手にはクリームたっぷりのケーキが掴まれている。
「…流石にフォークを使われませんか?」
リサに窘められ「あ」と真っ赤になるクラリッサにヴェールの下でラリアは笑顔をこぼしていた。




