スライムを拾った③
自分がどうして死んだのか、それを知るまでは死んでも死にきれなかった。
だから、こうして現世をさ迷っているに違いなかった。
どの道、一人じゃ墓に戻れないしな。
俺は墓荒らしの残していった革紐で宝刀『イカヅチ』を肋骨に結い付け、その上から布切れをマントのように羽織った。
宝刀『イカヅチ』はどうやらマナを断つ性質があり、『収蔵』しようとしてもできなかったのである。
その他残りの荷物は適当に『収蔵』しておいた。
ちなみに、金貨一枚の価値は、草むしり一ヶ月分である。
棺の中には数千枚の金貨が入っていたので、一生遊んで暮らしてもお釣りがくる。
あ、一生はもう終わっているのか。
ま、スケルトンだって、スケルトンなりに楽しめるはずだ。
くよくよしていても仕方がなかったので、そう前向き構えることにした。
そして、俺は山を下り始めた。
とりあえず目指すのは、麓に見える町だ。
とはいえ、このスケルトンの姿を人前に晒せば、先程の墓荒らしの時と同じようにまた問答無用で襲われるのではないか、という一抹の不安はあった。
いい方法を考えねば。
下山の途中、シュンカイ草の青みがかった葉っぱが視界に入ると、ついつい採取してしまった。
一種の職業病だ。
もう小銭は拾わなくていいのに、見て見ぬ振りをすると、もったいないお化けに祟られそうな気がするのだ。
その後もシュンカイ草の多い方へ多い方へと進んでいると、川辺に来てしまった。
ここはどこだろうか。
軽く迷子である。
ちょうど水を飲みに来ていた鹿の親子と目が合ったが、特にこちらを警戒している様子もなさそうだった。
少々脱線してしまったが、川沿いに再び山を下り始めた。
その道中、半透明の丸い物体を見掛けた。
スライムだ。
スケルトンと並んで最弱モンスターによくその名を連ねるが、スライムは土地毎に特性が大きく異なっており、魔王城近くの沼地に生息しているスライムは数々の冒険者を葬ったという話を聞いていた。
逆にいえば、こんな瘴気の欠片すらない土地に生息するスライムはとても弱っちい。
スライムもどうやらこちらに気づいたようで、ぺっちゃぺっちゃと体を弾ませながら近付いてきた。
「おやおや? どうしてこんなところにスケルトンが居るのかな?」
想像よりもうんと可愛らしい声でスライムがいった。
「スライムがしゃべった!?」
「馬鹿にしてるの!? スライムはスケルトンなんかよりよっぽど賢いんだから!」
「そうなのか?」
「そうなの!」
スライムは体をぽよんぽよんさせながらいった。
スライムが人の言葉をしゃべるなんて話は聞いたことがなかった。
こうしてスライムと言葉を交わすことができているのは、俺がスケルトンになったからだろうか。
「ところで、こんなところで何をしているんだ?」
人と話すのは苦手だったが、相手がスライムということもあり、俺は普通に会話できた。
「何も。この辺に生えている苔を食べて生きているだけ」
「暇なのか?」
「暇すぎる! 暇すぎて死にそうなの!」
スライムは目の下に水滴をぶら下げながらいった。
涙を表現しているのだろう。
「何か事情がありそうだな」
「そんな大したことじゃないわよ」
「へぇー、そうなのか」
「って、興味薄くない!? 何があったのかもっと聞いてきなさいよ!」
「で、何があったんだ?」
面倒臭いなと思いつつも、無下にするのも可哀想だったので、一応聞くだけは聞いてみよう。
「そんなに聞きたい? 仕方ないなあ。あれは五年前のことなんだけど――」
(あ、これ長くなるやつだ)
スライムの話を要約するとこうだ。
どこかの池の畔で仲間たちと暮らしていたスライムは、ある日人間に捕まり、ペットショップに並べられた。
しかし、スライムをペットにしたいと思う物好きな客は現れなかった。
世話は簡単だが、綺麗な声で鳴くわけでも動きがあるわけでもないので、ペットとしての人気は低かったからだ。
客引きにもならない売れないペットをいつまでも店先に並べておくわけにもいかなかったので、店主はスライムを川に捨てた。
川から這い上がったスライムは、人里から離れるために上流を目指した。
そうして、辿り着いたここに棲み着いていたのだそうだ。
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