第61話 勇者、部下の待遇を知る
フランの扇動で、マイアも同じように卵を触り始めた。
丈夫そうな卵だから、割れたりはしないだろうが……そんな事をしても無駄だと思うんだがなぁ。
それに、気絶から目を覚ましたら、サラちゃんから炎袋を貰えば良いんだし……多分フランはその事に気付いてない……馬鹿だからな。
「というか、フランの1年間の給料低すぎないか……?」
城下町を出る前に確認したが、炎袋の値段は城勤めの兵士が貰う給料の、半年分も無かったぞ?
「何故か、色々理由を付けて給料を減らされるんです! アルベーリ様はブラックです!」
「お前が馬鹿な事をしてるからだろう?」
「私は仕事のできる女なのにぃぃぃ!」
そう叫びながら、卵に張り付くフラン。
お前が本当に仕事のできる女なら、誰でも仕事ができると言えるだろうよ。
以前小遣い欲しさに、魔鏡を欲しがったのはそのせいだったんだろうな……。
俺はリィムと二人で座ったまま、卵に張り付くフランとマイアを、生温い目で眺めて過ごす事にした。
「結局……他のサラマンダーは来なかったな……」
「そうね……見張る必要はあったのかしら?」
「私が親なのよー。ほら、こっちの子もお母さんと呼ぶなのよー」
「私こそがお母さんですよ。あっちに騙されてはいけません。ほらほらーこれが証拠ですよー?」
「胸を強調するのはずるいなのよ!」
卵の前で、どちらが母親かの競争をしている二人を眺めながら、リィムと話す。
結局、あれからほぼ1日待ったが、サラマンダーが襲って来る事は無い。
それどころか、気絶させたサラちゃんが起きて来る事も無かった。
「なんだったんだろうな……まぁ良い、帰るか……」
「そうね……」
卵の中で脈動を始めたサラマンダーの子供達を、もう守る必要は無いと判断し、穴を出ようと立ち上がる。
「まだ生まれてないなのよ! 生まれないと、私が母親だと判断されないなのよ!」
「母親は私です! 生まれるまでもう少しでしょうから、待ちましょう!」
「お前らはどれだけ執着してるんだ! いいからさっさと行くぞ。もうそろそろ魔法も切れるしな」
俺が使った魔法は、1日で効果が切れる。
穴の中は相当な温度のはずだから、もし効果が切れた時にまだここにいたら……一瞬で血液が沸騰して死ぬ事もあり得るだろう。
「う……炎袋……」
「私のお金袋ぉぉぉぉぉ!」
マイアは、魔法が切れる事でどうなるか理解して、未練がある素振りを見せつつも卵から離れたが、フランは未だに卵から離れない。
それどころか、何としても孵るまで待つとばかりに卵の一つに抱き着いてる。
というか、炎袋はお金袋じゃない。
「うるさいな。ここにいると死ぬ事になるぞ?」
「お金が欲しいのぉぉぉぉ! 儲からないのなら死んでやるぅぅぅ!」
「どれだけお金に飢えてるんだよ!? いいから行くぞ!」
「いやぁぁぁぁぁ!」
尚も叫び続けるフランの足を掴んで、卵から引き剥がす。
そのまま引きずって、穴の外へと向かう。
マイアですら諦めたのに、どれだけ金が欲しいんだお前は……?
守銭奴魔族代表かよ。
「あら、お帰りなのー?」
「……サラちゃん?」
穴の外を目指して移動していると、気絶から起きたらしいサラちゃんが声を掛けて来た。
卵の所に向かう時のような、襲ってくる気配はなくなっている。
それは良いが、目が覚めてたなら何で卵の所に来なかったんだ?
「起きてたんだな?」
「すぐに目は覚めたわよー」
「卵は食料なんじゃ無かったのか? まるで襲って来る気配は無かったが……それに、他のサラマンダーも……」
「そりゃそうよー。だって、自分が産んだ卵を食べるわけないじゃない」
「え?」
「他のサラマンダ―が産んだ卵なら食べるけどねー。けど、ここに私以外のサラマンダ―はいないしー」
「は?」
それじゃあ、今まで俺達が卵を守ろうと見張ってた意味は……?
それどころか、サラちゃんが俺達を襲った意味は?
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