第41話 勇者、姫抱っこをする
「はぁ、チックハーゼ……」
「まだ言ってるのか……ちゃんと絶滅しないように残しておいたから、また見られるだろ?」
山から離れ、馬を繋いでる場所に向かう途中、ちらちらと後ろを振り返りながら、名残惜しそうにしているフランに。
……実際には、ほんの数匹しか残していないがな。
グリフォンや、バックミラーの時よりかなり少ない数だ。
害獣は少ないに限る……それでもまたそのうち増えるんだろう……。
「王妃様に言い付けてやりますからね!」
「それは止めろ! 絶対に止めろ!」
アルベーリが言うには、奥様はチックハーゼを可愛がる趣味があるらしい。
反攻して来たら握り潰すらしいが……そんな奥様に知られたら、俺が握り潰されてしまいそうだ……股間とかを……。
想像して体を震わせながら、フランに強く口止めをしておく。
……帰ったら、アルベーリにも言っておかないとな……俺に指示を出した事も同罪だと……。
「……あれ、馬がいませんよ?」
「おかしいな……確かにここに繋いでたはずだったんだが?」
馬を繋いでおいた場所に戻ると、そこには何もいなかった。
いや、繋いでたはずの縄が千切れていた。
「逃げたか……」
「そんなぁ……帰りはどうするんですか?」
「俺は走れば良いだけなんだけどな……」
アルベーリの魔法で、目を血走らせていた馬の事だ、目が覚めた途端に走り出そうとして暴れたんだろう。
そこらに蹄の跡を確認した。
考えてみれば、以前も暴れて縄が千切れる寸前だった。
今回は野宿したから、その時間で縄を千切って逃げたんだろうな……直進するしかできない馬だが……誰かに迷惑を掛けて無ければ良いが……。
「カーライルさんは非常識だから走れば良いでしょうけど、私は常識人なんです。王城まで走れるわけないじゃないですかぁ……」
「お前が常識人だと? ……何を言ってるんだ?」
常識に謝れフラン。
地面にへたり込んで、走れないと言うフランを見て溜め息を一つ。
「はぁ……仕方ないな。……よっと……これで行くぞ」
「ひゃあ! 何するんですか変態! 放して下さい! 訴えますよ!」
「うるさい……暴れるな……落ち……あ……」
「ぶへ」
フランを抱えて走れば良いかと考え、俗に言う姫抱っこの形で抱えると、腕の中でわめいて暴れたフラン。
俺が注意し終わる前に、腕から抜け出して地面に顔から落ちた。
「いたひでふ……」
「顔面から行ったからな……暴れるからだぞ? 今度はおとなしくしてろよ……っと」
顔を押さえて痛がるフランを再度抱える。
顔が痛いからなのか、暴れると危ないと悟ったからのか、今度はおとなしい。
「これで王城まで走るぞ?」
「……はい、お願いします……」
走る体勢に入ると、消え入りそうな小さい声で返事をするフラン。
何だ、しおらしい態度もできるんじゃないか……そうしてれば可愛い……と思いかけて止めた。
……顔から鼻血を出してる女を、可愛いと思える感性は俺には無い。
「おい、顔から……」
「くらえ!」
走りながら、フランに鼻血が出てると伝えようとする前に、自分で気付いたフランが、俺の鎧や服に鼻を擦り付けて来た。
「おい、止めろ! 汚れるじゃねぇか!」
「私の鼻血は綺麗なんです、汚れたりしませんよー」
「そんなわけあるか! 血を付けるな、止めろ!」
「止めませんー。カーライルさんのせいなんですからね。責任を取って下さい!」
王城へ向かい、来る時よりも早く移動しながら、抱えたフランと言い合う。
……もっと違うシチュエーションで、こんな残念美人じゃない女性から言われたかったな、そのセリフ……。
道中、何やら興奮した様子で目を血走らせた馬が爆走していたが、面倒なので無視して追い抜いた。
「あれって、私の乗っていた……」
「気のせいだ」
フランがおかしなことを言い掛けたが、気のせいで済ませる。
この格好で走るの……結構気持ち良いからな……主に自己主張の激しいお胸が……な……。
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