第39話 勇者、出汁を取る
「これは……カーライルさんが?」
「……ああ」
木で出来た簡易ベッドから起き上がり、焚き火に当たりながら聞くフラン。
ようやく状況が飲み込めたようだ。
「ありがとうございます。いけませんね、私。可愛い物を見ると見境が無くなっちゃって……」
「そうだな……だがまぁ、女ってのはそういうもんじゃないか?」
「そう、ですかね?」
「あぁ。だから、気を付けて行動さえしておけば良いんだよ」
「……はい」
焚き火で温めておいたスープの入ったカップを、フランに差し出す。
フランはそれを受け取って、何故か嬉しそうに頷きながら一口飲む。
「あ、美味しいですね。これ、何のスープなんですか?」
「……チックハーゼだ」
「は……?」
俺の答えに、呆然としてカップを落とすフラン。
おい、もったいないだろ。
先程大量に斬り殺したチックハーゼの残骸を、いくつか持って来て、水と一緒に煮込んでみた。
血を抜いたら、案外美味い出汁が出たようで、良いスープが出来た。
ちなみにカップは、そこらの木をくり抜いて作ってみた力作だ。
「今、何と言いましたか、カーライルさん? このスープはチックハーゼを使ってできてる、と?」
「ああ。チックハーゼを解体して、血を抜いた後煮込んだ物だ。特に味をととのえて無いのに、良い出汁が出て美味いだろ?」
「……カーライルさん」
「何だ?」
再度チックハーゼのスープだと伝えると、フランは俺の名を呼んで息を大きく吸った。
「……すぅ……何をしてるんですか! こんな、こんな酷い事を! あんな可愛い生き物をスープにするだなんて! しかも、それをスープにするなんて! ちょっとおかしいんじゃないですか!? 博愛精神はどうしたんですか! それでも勇者ですか! 意味がわからないです! あぁもう可愛い可愛いチックハーゼちゃん! 外道勇者にこんな姿にされちゃって! わぁぁぁぁぁぁぁ! あ……」
叫び終わると同時、一応手当しておいた傷口から小さい噴水のように血が飛び出してよろめいた。
起きてすぐ叫んだりするから……。
「……気が済んだか?」
「……はい」
「なら良し」
「……酷いです、カーライルさん。……もう一杯下さい」
血も止まり、叫んだ事で落ち着いたフランは、落としたカップを拾って俺に差し出す。
……結局飲むんだな。
「起きろー!」
「ひゃぁぁぁ!」
翌朝、そこそこ日も高くなって来て、そろそろ昼と言ってもいいくらいの頃。
そのあたりで、惰眠を貪っていたフランに叫んで起こす。
「ど、ど、どうしたんですかカーライルさん!? 襲撃でもありましたか!?」
「何が襲撃して来るんだよ。いい加減起きろ、もう良い頃だぞ」
昨夜はスープを飲んだ後、すぐにまた寝たフラン。
おそらく、血を流し過ぎたので体力を回復させるためだろう。
朝も、俺は普通に起きたが、フランの方は奇妙な笑い声を出しながら寝入っていて起きなかった。
それからしばらく経って、さすがに寝すぎだと起こしたわけだな。
「おや、もうあんなに日が高く……仕方ないですね、起きますか」
「ほら」
「ありがとうございます。……意外と気が利きますね」
起き上がったフランに、焚き火で温めたお湯を差し出す。
それを受け取ったフランは、木陰へと行って身繕いを始めたようだ。
……しかし、意外ととは失礼な……俺はちゃんと気が利く男だぞ? ……きっと。
「よし、準備出来ました。悲しい事ですが、チックハーゼ狩りと行きましょうか!」
昨日は反対していただけだったフランも、噛み付かれて考えを改めたのかもしれないな。
昨日みたいに、錯乱しなければ良い事だとは思うが……。
「チックハーゼなら、もうほとんど狩って来たぞ?」
「え?」
フランが惰眠を貪っている間、俺は一人で山に入ってチックハーゼ狩りをしていた。
ずっとここにいても暇だったしな。
「可愛いチックハーゼに何て事をぉぉぉぉぉぉ! またあの姿が見たかったのにぃぃぃぃ!」
「結局見たかっただけなのかよ!」
噛み付かれたり、貧血になった程度で考えを改めるフランじゃなかった。
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