第25話 リィムとマイア
カーライルとフランが、バックミラーと対面した頃のとある町の外。
「ぬんっ! せい!」
「はっ! やっ!」
筋骨隆々の男と、リィムが素手で殴り合っている姿があった。
「……強くなったな、リィム」
「父さん……師匠のおかげね」
拳をぶつけ合い、二人はお互いにニヤリと笑う。
言葉を交わして組手を止め、拳を離した。
「しかし……帰って来た時は何があったのかと思ったが、追放されるたぁな」
「ルインの馬鹿がおかしな事を言い出すからよ。カーライルを追い出すなんて……勇者が抜けて何が勇者パーティなんだか……」
「がははは……確かにな。勇者がいなければただのパーティだ」
「自分を勇者とでも勘違いしてるんじゃない? 勇者のカーライルがいたおかげで、今までやって来れたって言うのに」
「俺は会った事ぁ無いが、その勇者ってのは強いのか?」
「強いなんてものじゃないわ。私が手も足も出ないのよ? 大型の魔物さえ、軽々と真っ二つにするんだから」
「そいつぁ怖いな。ま、そのおかげでお前も、これだけ強くなれたってわけか」
「そうね、カーライルと一緒にいた時は、暇があれば修練を付けてもらっていたわ。おかげで師匠にも負けないようになれたわね」
「言いやがる……。だが、ここを離れた時はまだひよっこだったお前が、それだけできるようになったのなら、納得だな」
「まぁね。……んー、そろそろ昼ね。適当に何かを狩って食べようか」
「あぁ、動いて腹も減ったしな……ん? あれは何だ?」
組手を終えて、汗を拭きながら話していた二人。
リィムが近場で食料を調達しようとした時、父親で師匠でもあるルドルフが、遠くの街道をフラフラと歩いている人影を発見した。
「あれは……人? でも随分と疲れているみたいね」
「魔物にでもやられたか? フラフラしてるじゃねぇか」
二人がフラフラしている人への様子を窺いに近づく。
近づくにつれて、その人の姿がはっきり見えて来たため、それが誰なのかリィムが気付いた。
「アンタは……マイアじゃないの!? どうしたのその恰好は……ルインは!?」
「……リィム……? ……お願い……水を頂戴……なのよ……」
服も髪もボロボロになり、汚れた姿のマイアだった。
リィムはマイアに駆け寄って声を掛けるが、マイアは息も絶え絶えに水を欲しがるばかり。
「ほら、こいつを飲みな」
「……父さんの飲みかけ……」
「み、水! ……ゴクゴク……はぁ……生き返るなのよ」
リィムの後ろで様子を窺っていたルドルフが、マイアに水の入った水筒を差し出す。
それは先程の組手の後、水分補給のためにルドルフが飲んだ飲みかけだが、マイアはそれを気にすることなく、中身を全て飲み干した。
リィムは、父親の飲みかけの水筒だという事に引いた様子だったが、これが娘の思春期なのかとルドルフは寂しい気分になっている。
「それでマイア、一体どうしたの? 一人でこんな所にいるなんて……」
「ルインと離れたから一人なのよ。あても無く歩いてたらここにいたのよ。……ついでにさっき魔物に襲われたのよ」
リィム達に発見される少し前、近くで魔物に襲われたマイアは、命からがら逃げ出した。
その時、こけたり木の枝に服を引っかけたりして、服はボロボロ、顔には泥が付き、髪もボサボサになったのだった。
「お前も、ルインとかいう馬鹿に追放されたのか?」
「違うなのよ……ルインは捕まったなのよ……村の人達を騙してたからなのよ」
「はぁ……ルインなら捕まってもおかしくないわね」
「ふむ……仕方ない。とりあえず、こんな所じゃなく家に連れて行こう。そこで少し休んだ方が良いだろう」
「そうね……大分疲れてるみたいだし」
「……リィム……ルインに加担した私なのに……ありがとうなのよ」
マイアはリィムに支えられ、町の中にあるルドルフの家へと向かった。
「父さんは支えなくて良いから……変態」
「ちっ」
ここぞとばかりに若い娘に触れようとしたルドルフは、娘によって止められた。
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