第23話 勇者、爆走する
「それがな、その鏡を割ると破片が散らばるだろう? ……下手をすると怪我をしてしまう。金属並みに固いから、破片が散らばらないように手加減するわけにもいかん」
「俺なら怪我をしないと?」
「勇者なのだろう? そこは何とかすると信じてるぞ、友よ」
いつの間に友になったんだ……。
「放っておくというのは?」
向こうから何もしてこないのであれば、放っておいても無害なんじゃないか?
「それがそうでも無い。知っての通り魔族は魔法が使えるが、今では生活でも普通に使われている。鏡が村に紛れ込むと、生活に使う魔法に近寄って跳ね返して来るらしいのだ」
「魔法に近寄って来るのか」
わざわざ跳ね返すために来るってわけか。
数が少なければほとんど被害は出ないだろうが、大量にいるのなら村の各家に紛れ込んで……何て事もありそうだ。
「迷惑を掛けるだけの魔物なら、殲滅は?」
「それはもちろん駄目だ。割った後の鏡は貴重な素材だ。分裂して増える鏡は、絶滅させると増える事が無いからな」
「成る程な……」
素材として使うためにも、数を減らしておくだけに留めたいわけか。
「わかった。それじゃ、行って来る」
「ちょっと待って下さい!」
話を聞き終わった俺が、部屋を出て魔物のいる所へ向かおうとしたら、何故かフランに慌てて止められた。
「……何だ、何かあるのか?」
「まさか、今から行くなんて言いませんよね?」
「その通りだが?」
「せめて明日の朝にしましょう! 昨夜の踊りで足を捻ってちょっと痛いんです……」
突っ込みをさせるためのボケじゃなく、本当に踊ってたのかフラン……。
窓から侵入する癖と言い、夜に踊る事と言い、謎が多い女だ。
「……仕方ないな……明日の朝までにしっかり治しておけよ。それと、早い馬も用意しておけ」
「わかりました! という事でアルベーリ様、お願いします!」
「うむ」
フランがアルベーリに何やらお願いをすると、深々と頷く魔王。
一応こんなでも一国の主である魔王に、気軽にお願いとか良いんだろうか……なんて考えるのは止めよう。
この国は常識で考えちゃ駄目な気がする。
「アルベーリが何かするのか?」
「私が馬に魔法を掛けるのだ。それで倍以上の速度で走れるようになるはずだ」
アルベーリの魔法で馬を早くして、俺が走る速度に付いて来られるようにって事か、成る程ね。
ロラント王国じゃ考えられなかった事だな。
こういう所はさすが魔族、と言ったところだ。
翌日の朝、寝過ごす事も無くちゃんと起きた俺は、王城の前でフランの乗っている馬を見ている。
「それがアルベーリの魔法を掛けた馬か?」
「そうです。アルベーリ様の特別な魔法を掛けてもらいましたからね。これでカーライルさんに置いて行かれる事はありませんよ!」
自信満々に言うフランだが、俺は不安で仕方ない……何せ……。
「その馬、フラフラしてるんだが……?」
「これは魔法の副作用みたいなものです。走り出せば元気になるので大丈夫ですよ」
「そう、なのか?」
フランの言う事を信じて良いのかわからないが、そう言うなら今日は速めに走ってみよう。
万が一置いて行っても、フランなら大丈夫そうだしな……根拠は無いが。
「それでは、行くぞ……」
「はい!」
軽くジャンプをして、着地と同時に走り出す。
グリフォン退治の時よりも速度を出して走ってるから、普通の馬ならついて来られ無いだろう。
城下町を出て、少し行った所で走りながら後ろを見る。
「ちゃんとついて来てるかな……っておい!」
「ひゃぁぁぁぁぁぁ!」
後ろから砂煙を上げて、馬が走って来ている。
その速度は、確かに俺に付いて来られる速度なのだが、肝心のフランが振り落とされそうになっていた。
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