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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
番外編
88/232

88. 弥生

 穂積弥生は大都会、梅下田に居た。

 梅下田の夜の街が、弥生の人生に花を添えてくれるのだ。弥生にとっての活動時間は朝でも昼でも無い、(きら)びやかな夜だ。

 今日も弥生は光輝く不夜城で、高いヒールをカツカツならして歩いている。


 1年ほど前にパチンコ中毒になった。パチンコ中毒と同時にアルコール中毒の地獄にも陥った。アルコールが無いと体の震えが止まらなくなる。


 そして何より重篤だったのは、ホスト中毒だった。毎晩ホストに通わないと気が済まない。梅下田のとあるホストクラブに、日本国籍を持つハーフのホストが居た。彼の名はネイサンと言った。アメリカ人と日本人の両親を持つハーフで、日本で生まれたので国籍が日本にある。


 さて、その彼に弥生はぞっこんだった。彼に会う為毎日通い、毎晩数万円以上使っていた。

 その頃はホストクラブに通うのが1日の生きる目的だった。ネイサンはいつも弥生を特別扱いし、お姫様のような気分にさせてくれる。


 弥生はネイサンへのプレゼントで毎日頭がいっぱいだった。何をあげたら喜んでくれるかな。プレゼントを喜んでくれる度に、彼の弥生に対する気持ちが深まっている気がする。


 弥生はパチンコもアルコールも自力で辞めて、お金は全てネイサンにつぎ込むことにした。


 弥生自身はというと、梅下田でキャバ嬢をしていた。ナンバーワンはまだだけど、ランクは確実に上がっている。おじさんのアフターに付き合う時も、自然な笑顔を心がけているが考えているのはネイサンのことばかりだ。


 自分の客からもらった高価な装飾品などは、全て換金してネイサンに会う費用に回していた。それでもお金は足りなかった。自分の給料は勿論ネイサンのために使ったが、サラ金で100万円借りて、ホストクラブ通いと、プレゼント費用に充てていたが、まだまだ足りない。


 いじわるなことにネイサンはもっとねだる。ネイサンは「もっと稼げる所で稼ぎなよ。そしたら弥生と結婚もできる。」と言ってくれた。それで今、風俗関係の仕事も掛け持ちでやっている。身体的にはきついが、目的があれば頑張れる。ネイサンとの結婚。きっとうまくいく。




 そんなある日、弥生の元に警察が来た。「任意同行を求める」と言うのだ。人が折角、昼寝して英気を養っていたというのに迷惑な話だ。だが仕方なくついていった。


 梅下田警察へ行くと、取り調べが始まった。「何、あたし何も悪いことしてないんですけど」弥生は迷惑そうに不平を言う。

 婦警が言った。「穂積怜くん、蓮くん、ももちゃんが養護施設に保護されました。あなたは保護責任者遺棄罪で起訴される可能性があります。ホスト通いするお金があったら、弁護士探すことね。」


「保護責任なんちゃらって何よ。あたしはあの子たちの為に必死に働いて、ちゃんとお金あげてたし、あの子たち逞しく育ってるじゃない。勘違いしないでくれる?失礼にもほどがあるわ。」


「裁判所で言ってなさい。」


 婦警はどんな事情があるのかわからないが、弥生に対し怒りを隠せないらしい。(何なのよ。)弥生は最後まで悪態をついた。


 弥生に下された判決は、懲役3年執行猶予4年(求刑懲役3年)という軽いものであった。ネイサンに会いたい…弥生の頭の中はそれだけだった。

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