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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
第6章 過去
85/232

85. 27年前・4

 ———怜10歳(6年生・6月)———


 バウンサーを買ってから、数ヶ月が経った。怜は時折五谷図書館へ行き、育児本を読んだ。本に書いてあることと比べると、ももは成長が遅いのかも知れない。身体が全体的に細い。



 去年の6月、母親の弥生は突然家で出産した。怜はその介助をさせられた。へその緒を切ろうとしても切れない感覚がまだ残っている。


 だいぶ伸びてきたももの髪の毛は、金色っぽかった。


 怜は黒でウェーブがかかっており、蓮は赤茶色でくりんくりん、ももは金色でどちらかというとストレートだ。目の色も皆違う。皆……似ていない。

 前から思っていたが、3人の父親は違うのだろう。怜は思った。誰も父親に会ったことが無い。弥生から話を聞いたことも無いのだ。

 それでも3人は寄り添って生きてきた。


 …切実なのは、もう現金がほとんど尽きてしまったことだ。


 前回、約1年前に来てから、弥生からは音沙汰なしだ。電話など勿論もっていないから連絡がないのは当然だが、仕送りも、急な訪問も無い。

 弥生の存在は恐怖でしかなかったが、それでも唯一金銭面で頼れる人間だった。なのに今、無視されている。

 前に弥生が来た時は、飢えと疲れで生き絶える寸前だった。今回もその苦しさに近づいている。


 最近は学校まで走ることもできなくなってしまった。

 だから、ももを1人で留守番させる時間も少し長くなっている。

 小さなももを、明るいパートナーの蓮を、守ってやりたい。

 きっと何か、便利な安全グッズがあるはずだ。無いのは…それを買う現金だけだ。


 ももが泣く。もうすぐ1歳なのに、なんのお祝いもしてやれない。ももが小さいのはきっと、怜が充分な栄養を与えてやれていないからだ。本を見た通りにやっているつもりでも、なぜうまくいかないのだろう。


 誕生日のお祝いに何か、ももが手づかみで豪快に食べれるものが無いか考えてみた。怜は学校の給食で出る【ごはん】か【パン】を残し、それに、ももが選んだ離乳食や幼児食のレトルトをかけたものをあげるのはどうだろうと思った。


 学校から持って帰るご飯もおかずも一緒くたになった残飯をももにあげるのは衛生的にどうだろうと、さすがに躊躇していた怜だったが、ごはんは別にして持って帰ってやればいい。


 怜はスーパーへ行き、自由に取れる商品を入れるためのビニール袋を何枚か取った。ついでに、店をぐるりとまわり、店員の動きを観察した。

 蓮とももが待っているので、すぐに家に帰った。




 ——翌日。


「相沢さん。相沢茜さん。」


 怜は相沢に声をかけた。


「何突然、珍しいね、穂積君から声かけられるなんて。」


「ちょっと、頼みごとがあるんだ。あ、お金じゃ無いよ。」


「何?」


「ここでは言えないから、いつもの所に。」


 2人は体育館横へ移動した。


「もうすぐ、妹が1歳になるんだ。あ、本当に。嘘はもうつかないから。」


「わかってるよ。そっか、おめでとう。」


「ささやかなお祝いをしたいんだけど、何がいいか迷ってて、やっぱり食べ物かなって。スーパーで、妹が食べたがりそうなものを探したいんだ。今日じゃなくてもいいから、空いてる日、ある?」


「そりゃあるけど、一緒に買いにいくの?私、妹さんの好み、知らないよ」


「大丈夫。なんとなくおれ1人でスーパーで買い物するのが恥ずかしいんだよ。」


「そうなんだ。面白いね、穂積君って。」茜は笑った。


 ————ごめん、また嘘だ。嘘つきのおれ。狼少年。


「私の都合だけど、早い方がいいな。今度習い事の試合があって練習が立て込んでるんだ。」


「そっか、じゃあ、いつがいい?」


「今日は?だめ?」


「いや、いいよ。じゃあ今日、あのさびれたスーパーで…何時頃がいい?」


「うーん、放課後が良いから、穂積君と違って」また茜が笑った。

 怜はまたごめんと思った。


「そうだなあ、学校が15:45くらいに終わるから、16時にスーパー【ロープラ21】で、どう?」


「OK。じゃあ、よろしくな。」


「わかった。」


 その日の怜の給食の主食はごはんだった。

 もも、今日は特性どんぶり作ってやるよ。

 ごはんを全てビニールに詰めて、おかずは別のタッパーに全て詰めた。

 今日の昼メシは無し!

 でも怜の気分は高揚していた。

 誕生日はパーティーは前倒し、今日決行だ。

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