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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
第6章 過去
82/232

82. 27年前・1

 ———怜10歳(5年生・1月)———


 新年が明けようが、怜たちには何の関係もない。お年玉とやらを貰ってみたいが…。今月ももう5千円は使っている。凍死しては困るから、スーパーで奮発して安い毛布を買ってしまった。とても暖かくて蓮はおおはしゃぎだったが、本当に買って良かったのか、怜はお金の心配ばかりしていた。それでも夜、3人で寄り添って毛布に包まって眠る瞬間は幸せを感じていた。


 冬休みは、地域で餅つき大会があった。

 怜には既に、【図々しい】という概念がなくなっていた。当然弥生への恐怖の方がはるかに大きかったが。生きる為なら何でもする。餅つき大会にいそいそと参加し、ついた餅は無料で配られるので、「兄弟の分も3個分」と頼んだ。さすがにこれは、ももにはあげられないな…と思っていたら、担任の先生が「来ると思ってたよー」と走ってきた。


「ほれ、これ。ちょっと遅めのクリスマスプレゼント。5年生の先生たちからだ。」


 レジ袋を開けると、インスタントラーメンのパックが3種類入っていた。チキンラーメン、塩ラーメン、しょうゆラーメン。

 怜は深々と頭を下げた。目頭が熱かった。


 冬休み中も、先生にもらったインスタントラーメンはすぐに食べずに、空腹に限界が来たら夜に1袋を3人で分けて食べた。くにゃくにゃに煮てつぶしたものをあげたら、ももも「だあだあ」と嬉しそうな声を出して食べていた。ただ、まだミルクは必要な時期だ。先日五谷図書館で学んだことだ。金がかかる……金、金、金…。


 お金は、電気のつかない冷蔵庫の上の段に、レジ袋に入れて置いておいた。蓮にはこれで遊んだらご飯食べられなくなるから触るなよ、と厳しく言ってあるので触らない。ももにはとても届かない場所だった。


 1日1回は、冷蔵庫を開ける。そして中身を確認する。

 どうにか節約できないか……。おむつの代わりにタオルを使って………嫌だけど、うんちが出た場合はよく洗って………それをおむつがわりにすればだいぶ金が浮くのではと思った。

 タオルの数はそんなに……ほとんど……無いし、時期的に洗っても渇きは悪いだろうが挑戦してみることにした。


 試してみると、使っているタオルがペラペラだから、おしっこをするだけで床に水たまりができた。うんちの時など、惨劇だった。それでも金の為ならと思うと、手間をかけて床を拭いたりタオルを冷水で洗ったりできるのだった。



 冬休みが終わり、学校が始まると、また給食での食生活に戻った。


 登校して給食をがっついて、相沢茜に500円を返すのを忘れていたことに気づく。

 返そうと思えば返せるのだが、その500円……正確に言うと、その日、蓮のために50円おにぎりを3つ買ったので、350円しか残っていなかったが……で命が繋がれる事も大いにありえる。茜には悪いが、言われるまでとぼけておこうと怜は思った。


 良く無い…とはわかっていた。

 でも、と、自分に言い訳をしていた。


 相沢茜の家は金持ちだと言うことを何度か耳にした事がある。

 確かに習い事を何個もしているみたいだし、以前相沢の家を見たら高級そうで、怜の自宅とのあまりの違いに胸焼けがした。


 そんな茜のことだ。お小遣いくらい貰っているに違いない。

 しかも、結構な額のお小遣いである可能性は高い。

 この間500円貸して、と頼んだ時、一瞬たりとも迷うことなく貸してくれた。うちの事情をある程度話したから、もしかしたらまた、情けで貸してくれるかも知れない…。


 怜は毎日(さいな)まれる残金の圧力から少しでも解放されたくて、昼休みに茜に声をかけた。

 体育館の横の、人の目につかないところで、


「この間の500円もまだ返せなくてごめん。もう金が無くて…でも母さんが来たら必ず返すから。それで…」


「また借金?」


 茜は明るく笑って、ポケットに入れていた4つ折りにされた千円を取り出した。


「これで1500円。いつか返してよ?じゃあね。」


 色々説明しなくても貸してくれて良かった。やはり茜には、怜には想像がつかない程、自由に使える金があるのだ。


 そう考えるとどんどん欲が出てきた。この時期にぺらぺらの服を着ている弟と妹に、中古でいいから暖かい服を買ってやりたい。できることなら自分も欲しい。

 雨漏りした時困らないように、どこかでブルーシートを入手して天井に貼り付けたい。ブルーシートは廃棄物にあるかも知れないから、せめてガムテープでも…。

 給食が足りない時用に、3人それぞれが50円おにぎりを1つ食べれるようになりたい。ガスボンベをもっと買い足しておきたい。どうすれば良いのかわからないけど、ガスと電気がまた使えるようになって欲しい…あわよくば台所セットを買って、料理を学んで安く多く食べれるようになりたい………


 夢のような話しだが、一度顔を出すと引っ込まない強欲となってしまった。


「相沢さん、ももが、熱を出してて薬が必要なんだ…」


「相沢さん、蓮が、靴が小さいって泣くんだ」


「相沢さん」「相沢さん」「相沢さん…」


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