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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
第6章 過去
80/232

80. 28年前・10

 ———怜10歳(5年生・11月・Part2)———


 相沢茜。不思議な人である。


 茜は金持ちだと聞いたことがある。見た目もかわいらしくて、初々しい。髪が長くて、ポニーテールをしている。モテると聞いたことがある。他人のことを「誰にでも優しい」……と表現するのは簡単だが、怜も含めて誰にでも優しいのは茜だけであった。


 怜は小学校ではずっと異質な存在であった。


 ろくにご飯は食べていないのに背がだんとつで高かった。ところがその、背の高さは怜に威厳を与えることは無かった。何故なら体の線が細く、怜がパンチをする姿を想像すると皆笑ってしまう()()()()だったからだ。


 怜は毎日同じ服を着ていた。白いTシャツにブルージーンズ。ジーンズは履いているうちに味が出るとどこかで聞いた覚えがあるが、穴が開いたり、裂けたり、泥だらけになったり、短くなるのも【味】の1つなのだろうか。


 Tシャツもサイズが小さくなってしまい、よく言えば今は体にフィットしていた。怜の身長が伸びる速度は他の子より早いようなので、(へそ)が見えるようになるまでもう間も無いだろう。白だから汚れがよく目立つ。夏は毎日洗濯できるが、冬は1週間同じ服を着て登校して「臭い、臭い」と良く言われた。


 黒くて、ウェーブした髪の毛も、他の日本人の子ども達にはほとんど見かけられない髪質であった。その髪が日に日に伸びていき、「目が隠れた!」「鼻が隠れた!」とからかうのが同級生の遊びになっていた。時々髪を切って登校すると、それはそれでからかわれた。


 そして真っ白な肌は、「おばけ」だとか「ドラキュラの生まれ変わり」だとか、好きなように言われた。


 給食だけ食べにくるのも、クラスメイトには君悪がられた。本人に聞こえるように「浮浪者!」「ホームレス!」「貧乏人!」と罵られた。


 勉強をしに来ないのも「ずるい」だの「落ちぶれ者だの」、ストレートに「馬鹿」と言われていることも知っていた。


 そして何よりも、人の関心を掴んでやまなかったのは、怜の瞳の色だ。

 純粋な日本人は、ほとんどが濃い茶色、一般的には黒く見えるが、怜の色素の薄い瞳の色だけは威圧感があった。


 誰かが怜を馬鹿にしても、基本的には怜は気にしなかったが、あまりにしつこかったり(うるさ)かったりすると、怜は相手を一瞥(いちべつ)する。それだけで相手の言動は止まった。怜は自分の瞳の色を、【平和へのパスポート】だと思っていた。しかし自分の瞳を何色と呼ぶのかは、怜自身知らなかった。


 なにはともあれ、怜は学校では邪険に扱われていた。どこへ行っても「ガイジンが来たー」などと避けられることなど日常茶飯事だった。

 しかしそんなことより、給食の方が大事だったので、怜はめげたことが無い。


 冷遇される小学校内で、唯一何も気にしていない人が居た。それが茜だった。

 怜が貧乏でも、ハーフでも、勉強をしなくても、臭くて汚くても、何も言わなかった。それどころか、囃し立てるクラスメイト等がいたら、「やめてくれる?」なんてことをサラッと言う。不思議な人だった。



 —————


「何調べてたの?」


「いや………別に、何も。」


「ふうーん。」


 こう言うこともしつこく詮索しないのが茜らしいところだ。


「ねえ穂積君、ちょっと外でない?」


 返事を待たずして茜は1人図書館を出て行った。怜は急いで本を片付け、茜について行った。

 図書館を出てすぐの所にあるベンチに茜は座ろうとしていた。


「穂積君も座って。」


 怜はおとなしく座った。


「学校でのこと…色々あると思うけど、辛くない?」


「学校で?ああ、色々言われたり?うん、全然気にしてないよ。」


「そう…、良かった。気にしてなさそうだな〜とは思ってたけど。」


 茜は1人笑った。


「穂積君さ、小さい弟や妹がいるんでしょ?」


「何でそれを…知ってるの?」


「色々経緯があってね、知っちゃったの。でも、誰にも言ってないから安心して。」


「そっか……。黙っててくれて、ありがとう。」


「私にできることあればしたいから、何でも言ってね。」


「うん、ありがとう。」


「あと、これからはもっと、会話しよう?ね?」


「………わかった。そうしよう。」


 茜は立ち上がり、「急ぐんでしょ?また明日ね。」と言い残して図書館に入って行った。


 図書館の前の広場にある時計を見ると…確かに急がなければならない。2時間で帰ると約束したのだ。

 怜は、茜の優しさに疲れた心を少し癒されつつも、気持ちを切り替えて全速力で家へと走って行った。

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