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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
第6章 過去
79/232

79. 28年前・9

 ———怜10歳(5年生・11月)———


 最近、ももの様子がおかしい。

 弥生からもらったお金でまた、やっと、ちゃんとしたミルクを作ってあげられるようになったのにグズグズが多い。


 そういえば目覚ましい発展もあった。今までしなかったのに急に寝返りしたり、うつぶせになって、へへ〜と涎を垂らすこともある。


 なのに何が不満なのかわからない。

 かと言って、学校の先生にも誰にも聞けない。


 そうだ、そういえば歩いて30分位のところに、市立五谷図書館というのがあった気がする。

 普通のお母さんは赤ちゃんを抱っこするための紐のようなものを使ったり、ベビーカーを使っているが、怜にはとても手が出ない。金は死にそうになる寸前まで死守することに決めている。


 弥生に「ももを連れ回すな、余計な面倒が増える」と言われているので、そもそも、ももは1度も外に出たことが無い。

 ただ、図書館に行く時、怜と、蓮と、ももと、3人で行けたらどれだけ楽しいだろうと想像してみただけだ。


 もものことは蓮に任せ、2時間で帰ると約束して、怜は図書館へと向かった。走れる限り走った。疲れたら早歩きをした。


 図書館では無駄な時間を過ごさないように、入ってすぐ司書に乳児のことがわかる本が無いか聞こうと思った。

 ところが怜は、図書館の壮大さに圧倒されてしまった。

 円形の大きな屋根、木目調の落ち着く内装、柔らかいカーペットに広い空間。2階は子ども用の本が置いてあるらしい。


 見とれている場合じゃない、怜は気づいて、貸し出しのカウンターに座っている女性に声をかけた。


「すみません。学校の課題で赤ちゃんのことを調べています。1歳前くらいまでの赤ちゃんの成長や、生活で必要なものが何なのかとかが書いてある本はありますか?」


 走って図書館に来る間ずっと考えていた台詞だ。


「ありますよ、育児コーナーにたくさん。30番の列にあるの。わかるかしら?本棚の手前に大きく番号が書いてあるでしょう?30って書いてあるところが育児書のところ。もしわからなかったらまた聞きに来てちょうだいね。」


 女性はとても優しくて怜は安心した。


 縦向きに並んでいる本棚の、30番を探してみると、あった。

 30番の本棚の横にまわり、並んでいる本を見てみると、「たのしい育児」「0歳からの子育て」「パパとママ一緒にできる赤ちゃんのお世話」など、たくさんの赤ちゃんに関わる題名が並んでいた。


 怜は急いでいたので、とりあえず今のもも、生後5ヶ月位の赤ちゃんについて載ってるページがある本を手当たり次第取っては調べ、内容を比べた。

 

借りて帰るつもりはなかった。図書カードを作るとなると、また自分の情報を人に知らせてしまうことになる。小学校は?とか、ご両親は?とか聞かれては困る質問がいっぱいあるのだ。なので、全て頭にインプットして帰る予定だったので怜の集中力は研ぎ澄まされていた。この際、5ヶ月だけではなく、5、6ヶ月の赤ちゃんの成長についてとことん調ようとして本の内容に没頭した。


 そしてわかった大事なことがある。

 ももは、もう、【離乳食】というものを食べる時期なのだと。


 ミルクだけじゃ物足りないからぐずっていたのだろうか。いやしんぼめ、と思いながらも、怜はももに早く会いたくてうずうずしながら本を1つずつ直していった。


 すると突然、「穂積君?」と声がかかった。

 何もやましいことはしていないはずなのに、血の気が引いた。

 誰にも会いたくなかったのに、背後に知っている人がいる。

 外で自分に声をかける人間なんていないはずなのに、後ろにいる。

 そして自分が今持っている数冊の本は、赤ちゃん、育児、離乳食の本だ。

 一体、誰だろう…この場から逃げたいという切なる想いとともに後ろを振り返った。


 そこには同じクラスの、相沢茜(あいざわあかね)がいた。

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