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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
第5章 調査
70/232

70. にじのゆめ

【児童養護施設】にじのゆめは、都会というよりも、どちらかというと落ち着いた地域にあった。

 施設の近くには新設のコンビニやファミリーレストランもあった。


 目的の施設の前に車を停止した。車内から施設の様子を見る。入り口には【社会福祉法人 綾谷福祉事業会】というプレートが貼り付けられている。福祉事業会と言うからには幅広く福祉事業を行なっている法人なのだろうか。


【児童養護施設】という表記は無かったが、児童が合作で作ったのか、年季の入った木の板に白いペンキで【にじのゆめ】という可愛らしい札がかかっていた。

 門扉は閉まっていないが、子どもや職員の姿は見えない。


 建物は確かにクリーム色だったが、ホームページで見た写真よりだいぶくすんでいた。これも経年の証だろう。

 面白い形の建物だった。ぐにゃりと蛇のように曲がった棟もあれば、カタカナのコの時のように角ばった棟もある。いくつかの棟に分かれていて、年齢や性別ごとに居住空間が決まっているとホームページに書いてあった。

 建物の中央には芝のエリアがあり、記念樹なのだろう、大きく育った(かし)の木が風に揺れていた。確か、ホームページの写真に載っていた樫の木は、幼木だった気がする。


 児童養護施設は、基本的には18歳まで入所できるらしい。

 穂積怜や、弟、妹たちはここで18まで暮らしながら、近くの中学校、小学校に通ったのだろうか。今は推測しかできない。


 あまり施設を観察し過ぎると不審者と思われるかも知れない。

 百合華はメモを開き、【児童養護施設】にじのゆめ・開放的な空間。何歳〜何歳まで入所?と書いて閉じた。


 帰りも英語のポッドキャストを聴きながら帰った。英語のラジオみたいなものだ。

 百合華はこの2日間、穂積怜の影を追い続けて、追って追って、疲弊していた。だからこそエネルギーが必要なのだ。スマホから流れるニュースや曲を聴きながら、知っている曲は大声で歌い、気分転換をしながら車を走らせた。


 走っていると、少し先にLOFTの店名が見えた。明日まで待たなくても良い。百合華は店舗に入った。

 新しいノートの表紙を選ぶのが楽しい。前回はMサイズを購入したが、2日間でこの消耗量だ。今回はLサイズの、前回と同じスターパターンの色違い、ベージュを購入した。



 買い物をして時計を見ると19時だった。

 すでに自宅アパートの近所に来ている。きっと、バー・オリオンに行けばいつものメンバーが酒を飲んでいるに違いない。皆に会って報告したかったが、百合華は疲れすぎていたし、探偵活動で得た情報は死守しなければならない。

 どの道明日の出勤で皆の顔は見れるから、百合華はそう思い、ハンドルを自宅アパートの方へと向けた。


「ただいま〜…」と言っても、誰も返事はくれない。

 だが、百合華は寂しさをあまり感じなかった。今日聞いたばかりの、穂積怜の幼少期。普段、母親の弥生がどのような生活をしていたのかは未だにわからないが、小さな部屋で子どもが3人身を寄せて暮らしていた姿が想像できる。小さな穂積怜は、現在の百合華に発見されたばかりだ。彼はおいおい泣いている。そこには小さな穂積怜が抱える大きな絶望が見えた気がした。でもその正体は、まだはっきりしない。


 百合華は冷蔵庫の中身を見て、夕飯の準備をした。いつもより遅めの夕飯だが仕方がない。簡単に野菜炒めでも作って終わりにしようかと思ったが、明日の弁当の準備もしなければならないことに気が付いた。

 丁度鶏肉があったので、バー・オリオンのちょび髭店長ことマスター・(ひがし)の最新料理、甘辛チキン揚げも作った。

 明日の昼、穂積怜に屋上庭園で会うかな。チキン揚げを作ったのは、偶然だ。

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