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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
第2章 平日
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07. 雨の日

  その日は朝から雲行きが怪しかった。しかし天気予報では晴れのち曇りと出ている。降水確率10%。でもなぜだか雨が降りそうだったので、百合華は念の為折り畳み傘を持って通勤した。


 最寄駅で夢子と落ち合い、各駅停車で3駅進む。


「なんとなく雨が降りそうな予感がして、折り畳み傘持ってきちゃった。」百合華が言った。


「だいたい百合華の予想って当たるもんね。天気予報より正確だもん。私傘忘れたから、帰り降ってたら入れてね。」夢子が気さくに返答した。


 職場ではミスも無く、平穏無事にその日の仕事を終えることができた。

 いつもの仲間の女子会メンバーも、顔は明るい。


 帰りはいつも通り、社長が経営するバー・オリオンに寄った。女子会メンバーの1番の酒好き、野間宏美は所用のためその日の1日終了の儀式はパスすることとなった。

 宏美以外の4人はバーの無垢の木の重たいドアをそっと開けた。


 皆でまずすることといえば、穂積怜の確認だ。彼が居ないことは今まで1度も無かったが、念の為皆チェックする癖がある。今日も無表情でカウンター内の作業を黙々としていた。


 いつも通り黒ビールからはじまり、それぞれが好きなことを話していた。今度の休日のこと、ファッションのこと、新しくできた駅ビルの店のこと、ここの店長のちょび髭のこと…。次の日は仕事が休みなため、女子メンバーは閉店時間までのんべんだらりと有意義な時間を過ごした。


 一通り呑んで話して、ほろ酔い気分で会計をした。ちょび髭店長は今日もご機嫌だ。


「あれあれ、今日は宏美ちゃんがご不在ですねえ?」


 店長は百合華たち女子メンバーの名前を網羅している。最初に会った時に自己紹介をしたからだ。なかなかの記憶力があるらしい。それにひきかえ、女子メンバーは誰1人として店長の名前を覚えていない。


「今日は用事で来れなかったの。売り上げに1番貢献するのは宏美だもんね、店長。残念〜」


 夢子が茶化すように喋りながら財布をいじっている。店長は苦笑いしながら、宏美ちゃんがいないと寂しいだけですよーと、金を受け取る。


 外へ出ると、ぽつぽつと小雨が降っていた。


 夢子が感嘆しながら、「すごい、やっぱ当たり。朝百合華がね、今日雨降りそうって言ってたの」と言った。


「えー、傘持ってないよ〜。でもこれくらいのうちなら、急げば駅まで何とかなるね」まりりんが言った。


 反対方向の仲間たちに早々に別れを告げて、百合華と夢子も早足で駅へと向かう。


「傘、使う?」百合華が聞くと「まだ大丈夫じゃん?急ごう、ザーッときそうな空だよ」と、夢子は空を見上げながら早足を続けた。


 いつもより早く駅についたその時、百合華は決定的な失敗に気づいた。

 スマホをバーに置き忘れてしまったのだ。顔面が蒼白になったのを百合華は自覚した。

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