63. 竹内夫妻
大福を入手して、車に戻った時、百合華はロルバーンのメモ帳を取り出した。買ったばかりの頃とは見違えるほど、ボロボロになっている。残りページも少ない。近々買い足さなければ。
先ほど、明美のところで見た年賀はがきのことをまとめてメモを取っておくことにした。
穂積怜には
5歳下の弟・蓮と、6歳位下の妹・ももがいる。
全員ハーフ?(父親は違う?)
小学5年生くらいまで五谷にいた可能性
消印の謎
簡単にまとめると、百合華はメモ帳を閉じ、ハンバーグ屋の竹内文彦の所へと向かった。
日曜のお昼時とあって、ハンバーグ屋は客でいっぱいだった。ドアを開けると、また低い声で竹内の「らっしゃ〜い!」という大きな声が響いた。今日も首にバンダナを巻き、コック帽をかぶっている。
竹内は百合華の方を見ると、目を丸くしてびっくりした。すると女性店員が「お好きな席にどうぞ」と言ってきた。
「じゃあ、カウンター良いですか?」
百合華が言うと、
「こちらへどうぞ」
と、空いた席へと案内してくれた。
百合華はメニューを開いた。昨日は【国産おいしいハンバーグ定食】を頼んだが、今日は横に立ったままの女性店員に、【国産和風おいしいハンバーグ定食】をオーダーした。
カウンターで大忙しでハンバーグを焼く竹内は「今日は取材?それとも、飯?」と聞いてきた。
「両方です。」
「いいよ、まあ、今日は混んでるからいつ話せるかわっかんねえけど」
竹内は苦笑しながらも、喜んでいた。
【国産和風おいしいハンバーグ定食】は、本当に美味しかった。肉汁たっぷりのハンバーグの上に。シソと大根おろしが乗っており、お好みの量を調整できるように和風ダレは別の容器に添えてあった。
肉のこってりと、大根おろしのさっぱりが反発し合うことなく、優しく融合し合っていて口の中でとろけ合う。
「美味しいです!」
百合華は思わず叫んだ。竹内はうんうん、と笑顔で頷いている。
時刻は13時半を回ろうとしていた。昼食に来ていた客たちが続々と会計を済ませて帰る。レジ打ちをしていたのは、席を案内してくれた女性だった。竹内は以前来た時に、忙しい時は妻が手伝いに来てくれると言っていた。きっとあの女性が竹内の妻なのだろう。会計を終えた客ひとりひとりに笑顔で何か会話をしてから「ありがとうございました」と言っている。
ここは常連が多いと聞いた。きっと常連さんと何やら世間話をしてコミュニケーションをはかることを大事にしているのだろう。
14時頃には客は引いた。竹内も、その妻と思しき人も、ふう〜とため息をついてひと段落を味わっていた。
「えーっと…く……桑原さんだっけ?」
「倉木です。お疲れのところまた来てしまい、すみません…。」
竹内の妻らしき人物が不思議そうに見ている。すると竹内は百合華を見て、女性のことを紹介してくれた。
「あ、俺の奥さん。涼香。涼しいに香りって書くんだ。」
確かにこの暑さで気だるい屋外でも、涼香だけは涼しげに歩いていそうな雰囲気がある。涼香は不思議そうな顔で竹内を見ている。
「ほら、この間話した、取材に来た人だよ。穂積怜のこと聞きに来た。」
「ああ!そうでしたか!」涼香が言った。
どうやら百合華は竹内家でちょっとした話題に上がったらしい。
「その節は色々教えていただき、本当にありがとうございました。今日もお疲れのところ恐縮です。これ、もしよかったら…」
先ほど買ったばかりの大福を差し出すと、夫妻は目を合わせて喜んだ。
「大好物なんだ。ありがとう。あ、そういえばさ、俺色々喋ってその日から暫くの間、穂積怜のことが頭から離れなかったわけ。それで、思い出したこととかあったんだよ。今日来てくれてよかった。もう、言いたくて言いたくてウズウズしてたからさあ。」
竹内の朗報に百合華の心が踊った。
「いやあ〜、年月が経つと人の記憶ってのはねじ曲がっちまうもんだね。それとも年か?」
竹内が笑った。涼香も「年よ」と笑っている。
涼子は「失礼」と言って、百合華の隣の席に座った。竹内はカウンター奥で着替えたあと、出てきて百合華の反対隣に座った。
「ああ、そうそう、この涼香も五谷小出身なんだ。俺より7歳若いから、怜が小学校卒業の頃、こいつは入学したから、あまり記憶は無いらしいんだけどな。」
「では、涼香さんが覚えている怜の姿って何かありますか?」
「名前は低学年の頃から知ってたの。うちの学校にイケメンのガイジンがいるって皆で囃し立ててたから。その目の色が変わっててちょっと怖かった覚えがある。」
百合華はメモの許可を取って、話をかいつまんで記入していく。
「実際にお会いしたことは?」
「怜は…そんなに覚えてなくて、2、3回くらいかも。喋ったことはない。通りすがったりしただけ。運動会とかイベントごとは出てなかったから。ただね、」
「はい」
「穂積怜の弟、穂積蓮って知ってる?」
「はい。」
「蓮は私の同級生だったの。クラスが一緒だった頃もあるわ。」




