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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
第5章 調査
61/232

61. 年賀状2

 2枚目の写真を見るために1枚目を捲った。

 そこには更に恰幅の良くなった弥生が、また派手な着物を着ている。レンタルの安物の中で一番派手なやつを選んだ…という風にしか見えない。


「その年賀は更に5年後よ。」

 明美が言った。


「…家族が、増えていますね。」


 派手過ぎる化粧をし、金髪をサロンでそれらしく整えてもらい、ご満悦な弥生はまだ25歳位だ。穂積怜と、もう1人、もっと幼い男の子が写っている。


【あけおめ〜】

 怜(10)くんと、蓮くん(5)でえ〜す。

 おなかにもう1人あかちゃんいるんだよ。

 次は女の子だよお(*≧∀≦*)


 写真にうつる怜も、蓮も、派手な陣羽織を着ている。

 蓮…?弟?彼もまたハーフのようだ。くりんくりんの赤茶色の髪の毛、瞳の色は日本人のような濃い茶色だ。肌は怜と同じように白いが、2人の顔は似ていない。


「この、怜と蓮兄弟は、父親は同じなのでしょうか…」


 素朴な疑問を、何も考えず口にしてしまった。

 明美も定かなことは知らない様子で、うーん…と唸ったあと、


「私は違うと思うな。顔つきも似てないし。向こうの住所はどれも書いてないけど、これね、消印に書いてある地域に私たち、スナックのぶ絵の皆、驚いちゃって。」


 消印には、【梅下田】と押してある。


 梅下田…ひょっとしてあの大都会の?


「これって、()()梅下田でしょうか?」


「多分ね。でも私たち、彼女には良い気がしてなかったから、捜索はしなかった。そしたら、数年後もまた年賀が来たの。」


 明美は写真年賀を指差した。


 そこには、明らかに顔を整形した弥生がいた。整形とわからない自然な整形が現代はあるらしいが、この頃は無かったのだろうか?顔全体が無理している。しかしそれに満足しているかのように、弥生は満面の笑みだ。

 2人の男の子は、無表情だ。何の感情も表出していない。子供らしさが無いというべきか。


「共通して言えるのは、弥生だけ盛り上がっていて子ども達は無関心な点ですね。あと、父親が不在なこと。」


 百合華が言った。


「そうね。でもさ、だいたい、こういうのって子どもが主役にならない?弥生らしいといえばそれで終わりなんだけどね。それで、最後の1枚が、それ。」


 百合華は3枚目の写真を見た。

 また家族が増えていた。


「2枚目の時、お腹にいた子が生まれたのね。」


 明美が言った。弥生がまた派手な着物で真ん中の椅子に座り、その前に赤ちゃんの撮影用の小さな椅子が置かれていて、ピンク色のドレスを身につけた赤ちゃんいた。この子も明らかにハーフだ。髪は金髪に近い。小さくてよく見えないが、目の色素も薄そうだ。

 その赤ちゃんの両脇に、兄達が立っていた。向かって左に長男の怜、右に次男の蓮。兄達は相変わらず、眩い陣羽織を着ている。


【あけおめ〜ことよろ〜】

 女の子うまれたよ!ももちゃんでえす。(^ ^)


 メッセージはそれだけだった。高校生のような丸字を使う。


「この女の子、何ヶ月くらいなんでしょう…」


「私たちもそれ、話してたんだけど、腰が座ってたらこういう撮影用の椅子使わないんじゃないかって。それに顔が新生児に近いから、生まれてまだ2、3ヶ月…?って言ってたっけなあ。」


弥生発するの圧迫感ある写真を見ていると、怜と蓮兄弟の痩せ具合が引き立つ。怜は相変わらず無表情だが、蓮は撮影スタッフの功績か、笑顔が見られた。


「この時で、怜が小学5年、蓮が年長、ももが生後数ヶ月ということになりますよね?おそらく。」


「あ、でもね。ももの月齢は不明かなって話してたの。ももに限らないけど。写真って基本、いつの時期でも撮れるじゃない?日付も入ってないし。」


「確かにそうですね。」


「うん…それで消印が今度は、【世田山】よ。どう思う?」


「あの、【世田山】ですよね……旅行していて、たまたま居た場所で投函しているとか?」


「それもありよ。でも本当に引っ越してたら、経済的に余裕無いと。この写真年賀みたいに歯を見せて笑ってなんて居られない筈よ。」


「でも、気がかりなことがあるんですよね…」

 百合華が写真を見ながら呟く。


「何?」


「明美さん、五谷小学校近くのハンバーグ屋さん、【太陽】って知ってます?」


「ああ、うん。行ったことある。」


「美味しいですよね…」


「確かに。それ?今言うこと。」


 百合華ははっとして深呼吸をした。頭がパニックに陥っているのだ。


「あのハンバーグ屋の店長が、穂積怜は五谷小学校に来ていたって証言しているんです。彼らは学年が2つ違うし、古い記憶だから正確ではない部分もあるかも知れないけど、給食を犬食いしていた話とか、いじめられていた話とか、具体的な事を知っていたんです。」


 明美は興味深げに話を聞いている。


「それで、中学校に入る前後に引っ越したと。その辺はだいぶ曖昧な証言でしたが、五谷には居たんですよ。スナック弥生が潰れて、ここスナック・のぶ絵のお金を奪ってとんずらしてからも、子どもは五谷の小学校に数年は通っていたんです。」


「………どういうこと?」


「ハンバーグ屋さんは学年が2年上だから、中学入学の時は穂積怜は5年生です。その辺からハンバーグ屋の、竹内さんっていうんですけど、竹内さんの記憶が曖昧になってます。竹内さんは、未就学時にも園に通ってた様子が無かったこと、通学も最初はしてたかどうかわからないけど急に給食狙いで来るようになったことを話していました。」


「なるほど…」

 明美もパニックに陥りかかっているらしい。


「つまり穂積怜は、小学?年生〜少なくとも5年生は、五谷に居たってことです。」


 百合華は続けた。


「仮に、怜が5年生まで五谷に居たとしたら、この2枚目の年賀はがきの頃はまだ五谷にいた…ってことになります。」

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