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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
第5章 調査
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58. 五谷中学校

 日曜日。昨日よりは曇天が広がっているが、雨は降っていない。天気予報をスマホで確認すると、降水確率は0%になっている。

 天気予報はあまり当てにならないが、自分の勘は結構当てになる。今日はこのまま曇天模様だろうと百合華は思った。


 昨日行ったばかりだから道順は覚えていた。万一道に迷って時間を無駄にするのは嫌だったので、一応ナビだけはつけておいた。


 昨日の運転中は【レ・ミゼラブル】のサウンドトラックで、1人感動しながら歌っていたが、今日はスマホのポッドキャストで英語のニュースを聴きながら運転することにした。滞米歴6年の百合華には英語の免疫がある。


 2度目の訪問だからか、昨日より早く目的地に着いた。スマホのポッドキャストを切り、ポケットにしまう。


 今日は弥生が通っていた五谷(ごたに)中学校にて、アポなしの情報収拾。それから昨日訪ねたスナック【のぶ絵】へ行って、明美ママに弥生から送られてきたという年賀状を見せてもらう。

 他は芋づる式に何か情報に出会って行くのではないかと考えていた。一般的なジャーナリストならもっと詳細なプランを立てて取材に及ぶのかも知れないが、百合華がしているのは探偵に近い。それに、明日からは平日5日間仕事だ。時間が無い。だからこそプランニングが大事なのではという疑問も残るが、プランを立てる程の情報が無い。

 百合華はその場その場の出会いを大事にしたい、と昨日の取材で思ったのだった。


 五谷中学校に着いた。校門の横に駐車させてもらう。


 日曜日なので、教諭や校長たちは不在だろうと思っていたが、校庭から子ども達の大きな声が聞こえてきた。野球部だ。

 体育館は開放されていて、ボールをドリブルする音や、キュッキュッという足音が響いて聞こえてくる。


 百合華は校門の前で立ち止まっていた。今日は【校庭開放】などと書かれていないし、鉄の扉もきっちり閉まっている。これで無理やり入ったら不法侵入になるのかも知れない。


 困ったことに、誰も百合華の姿に気づいてくれない。どうしよう、先に明美さんの所へ行こうかな…と思いながらも暫く野球部の試合を見ていた。


 百合華は高校野球が好きだった。信じられない逆転が良く起こりうるからだ。


 ここ五谷中学の野球部は強いのだろうか?監督が(げき)を飛ばしている。スコアを見ると、AチームvsBチームとなっている。校内練習試合のようだ。現在8回の裏。もう少し待てば試合は終わる。百合華は試合が終わるまで門の前で待つことにした。


 順調に試合は進み、逆転もなく優勢であったBチームが勝利した。Bチームが集まって喜んでいる。こういう瞬間は純粋な青春のようで微笑ましく思う。


 野球部が片付けを始めた。すると1人の女子生徒が百合華の方に走ってきた。野球部のマネージャーのようだ。


「あのー、さっきからここに居ますよね?どうしたんですか?」


 百合華はやっと発掘された太古の化石のような気分だった。以前タクシーで穂積怜と冗談を言い合ったアレだ。「ユリーカ!」


 女子生徒は不思議そうに百合華を見ている。


「あっ、気づいてくれてありがとう。私、倉木百合華と言います。人探しをしていて、先生と話がしたいんだけど、今手の空いている先生が居るかどうか、わかりますか?」


 ちょっと待っていてください、とその生徒は一礼をして、校庭へと戻って行った。礼儀の正しい子だ。きっと運動部の特性なのだろう。


 暫くして、野球帽を片手に持った50代位の男性が、先ほどの女子生徒と共に小走りでやって来た。


 女子生徒が言う。

「私たちの監督、平井先生です。」


 小泉は百合華の目を見て、

「どうもお待たせしてすみません、人探し…ですか?」

 と言った。

 白髪混じりの天然パーマ、日々の監督生活のせいか、真っ黒に日焼けしている。


「はい、私の知人とその母親が行方不明で、2人ともここ五谷の出身なんです。なので昨日から手当たり次第、情報が無いかと探しているのです。特に母親はこの中学に在籍していました。なので、どなたか彼女を覚えていないかと思い、お邪魔しております。」


 平井監督は頭をワサワサっと掻き乱し、急な来訪に戸惑っているようだ。


「驚かせてしまい、申し訳ありません。」


「いやいや、ただ助けになるかなあ〜。今日は基本的に部活の担当の先生しか来てないんだよな。」


「何て言う名前の人なの?その、行方不明の方は。」


 平井監督は戸惑いながらも聞いてくれた。


「穂積弥生さん、という人です。」

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