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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
第5章 調査
51/232

51. 五谷小学校

【事務室】のアルミのドアをノックすると、中に居た2人が同時にこちらを見た。百合華は一礼をして、ドアをゆっくりスライドさせた。


「突然申し訳ございません。ちょっとお聞きしたい事があるのですが…」


 初老の男性が老眼鏡ごしに

「これまたべっぴんさんがきなさった。」と言った。

 もう1人の若い事務員は少しむすっとした。


「どんな用事ですかいな。」

 男性が尋ねた。


「実は、私の友人の母親が行方不明になっていて、警察もまだ見つけていないんです。それで、友人同士で力を合わせて、その母親を探そうと思って、彼女に関係する場所を全て回っているところなんです。」


 用意していた嘘をついた。

 本当は、織田(おりた)出版社の名刺を出せば、百合華の身分は、より不審がられることは無いだろう。しかし、弥生の記事を書くわけでも無い。かえってややこしくなりそうだから、弥生の子供の友人という事にした。全てが嘘ではない。


「ほーう、そりゃ大変なこって。」


 初老の男性は面白い話し方をする。癖なのか、それとも訛りなのか。


「それで、どなたをお探しなんです?」


 事務員らしき女性…30代後半、痩せ型でメガネをかけている…彼女が百合華に聞いた。


「穂積、弥生さんという方です。」


 2人とも目を上にあげ、その人物が彼らの人物録に記載されているかを検索しているようだ。


 女性が先に言った。「知らないなあ〜。何歳くらいの人?」


「今、54歳くらいです。」


「じゃあ小学校に居たのって、ざっくり言って40年位前じゃない!私はここ来て数年だから全くわからないわ…ごめんなさい。」


 女性は手元のファイルを引きよせ、仕事を始めるつもりらしい。もう私の役目は終わったわ。という雰囲気を(かも)し出している。


「シゲさん今年定年だから。シゲさんの方が良く知ってるんじゃない?」


 女性がメガネをあげながら百合華を見て、また手元のファイルに目線を落とした。


「いや、わしは65で退職するからの、あと5年はここで生き延びる。」


「ああ、そうなの。」

 女性はファイルを見ながら空返事をした。


「再任用と言ってね、65までいけるんだわ。」

 男性が答えた。


「そうでしたか。それではもしかしたら、穂積弥生さんと会ったことあるかも知れないですね?」


「しっかし40年前となるとのーう…わしゃ、27でこの職就いて勤続33年程度になる。40年前だと…っわっからねえなあ〜その間異動もあったしな。」


 男性はシワシワの顔に更に皺をよせ、申し訳なさそうにこちらを見た。


 やっぱりそう簡単にはいかないか…


「今日は、出勤されている先生はいらっしゃいますか?」


「ええ、何名か。でもさっきの人、弥生って人のことは知らないと思うけど。」


「今日は校長さんも来ている筈よー、お嬢ちゃん。なんなら確認しちゃろか?」


 またお節介焼いて…と女性事務員が呟く。


 男性用務員が内線で校長室に繋いでくれる。すると相手はそこに居たらしい。


「ああー用務の高木だけどね、今、人探ししてる人が来とりますんですがね、どしましょ?校長先生、お会いになってもらえますかいな?」


「はい、はい。じゃ、ご案内しますわ。どうもー。」


 高木シゲさんは、校長との面会を取り付けてくれた。


「ああ、コレはいてね。」


 と、スリッパまで出してくれた。気の利くシゲさんだ。


 百合華はお礼を言って、シゲさんに付いて行った。


 3階に上がり、【校長室】と書かれた部屋の前までたどり着いた。

 シゲさんが、トンットンットトンットンとリズム良くノックすると「どうぞ。」と女性の声がした。ついお腹の大きな貫禄のある男性をイメージしていたが、どうやら今の五谷小学校の校長は女性らしい。


 シゲさんは勢いよくアルミの引き戸を開け、「この人でっさ。」と言って、帰っていった。


「あの、シゲさん!」


 百合華が声をかけ、お辞儀をして、


「ありがとうございました!」


 と言った。


 シゲさんは「なんのなんの」と言いながら、階段を降りて行った。


「改めまして、倉木百合華と申します。校長先生、お忙しい中、申し訳ありません。」


「あ、いいのいいの。今日は仕事で来たんじゃないのよ、ちょっと色々あってね。では改めまして、わたくし五谷小の校長をしております、押川文子(おしかわふみこ)と言います。あら、私の名刺どこかしら。」


「いえ、大丈夫です。私も今日名刺持っていないので…お仕事としてというより、プライベートでお話を聞かせていただきたいんです。」


「あなたは、ええと倉木さんね、倉木さんのご職業は?」


「編集者です。ですが今日は本業とは関係なく来ています。」


「なるほど、どんな用事かしら?」


 こちらも定年間近に思える年齢の校長が、百合華にソファに座ることをすすめた。百合華は遠慮なく座った。校長がお茶を淹れようとしている。


「あっ、校長先生、お気遣いなく!」


「いいのよ。ちょっとだけ待ってね。」


 校長が百合華の前にお茶を出してくれた。


「ありがとうございます。」


「それで、そうそう。本題だけど、どんな用事かしら?」


 校長も対面のソファに腰を下ろした。

 百合華は先ほど事務室で話したことと同じことを、校長に尋ねた。


「穂積弥生さんねえ〜………」


 押川校長は額をおさえ、思い出そうと努力してくれている。

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