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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
第4章 準備
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43. 情報整理

 桑山と別れて帰宅してから、百合華は現状をメモにまとめる事にした。


 優子に借りたアルバムを2冊、1LDKのアパートの床にそっと置いた。そしてまずは小学校のアルバムを手に取った。


 *公立五谷(ごたに)小学校。


 聞いた事のある地名だ。地元紹介の編集部に所属しているから地名にはある程度自信がある。恐らく、百合華のアパートから南西に5、6車を走らせれば着く場所だろう。


 優子さんは、スナックは米軍基地の近くの路地裏にあったと言っていた。


 *米軍基地=横井米軍基地


 当てずっぽうだが、このエリアにある有名な米軍基地は横井しかない。

 横井エリアの公立小学校か…


 昭和53年度卒業……計算すると優子と弥生は今54歳前後となる。となると穂積怜が生まれたのは……穂積弥生が16歳の時??16歳でスナックのママやっていたというのか?合法ではない筈だ。しかし、高校へは進学していなかったと優子は言っていたので、ありえないとは言い切れない。


 けばい姿の16歳が白人男性に夢中になり、手当たり次第関係を持っていたと考えると、百合華は不穏(ふおん)な気分に(さいな)まれた。


 ページを捲ると、社長室では見なかった集合写真があった。どこだ、どこだ、弥生は…。百合華は生徒たちの顔を指で追いながら探すと、いた。二列目の左端。

 黄緑色のトレーナーに、色あせたオレンジ色の短パン。冬に撮影した筈だ、皆長袖長ズボンの中、明らかに弥生の姿は浮いていた。


 そして表情は暗いが、カメラのレンズを直視している。『誰か、わたしをみつけて。』そう言っているような気がした。


 他のページをパラパラ捲ると、それぞれのクラスの枠を超えて、小学校の6年間で楽しかった思い出を切り抜きして貼ってあるページがあった。林間学校や遠足、運動会や教室の写真などだ。友達同士で肩を組んでピースをしている写真が多かった。

 1つ1つ丁寧に見たが、百合華の姿はどこにも写っていなかった。このアルバムを見た時、百合華は一体どう思ったのだろう。


 百合華はノートパソコンを開いて【五谷小学校】と入力した。学校の写真や行事の案内の他に、ご丁寧に住所まで載っている。やはり百合華が想像した方角に小学校はあった。ここには1度、行かなければならないだろう。


 次に、中学校のアルバムを開いた。公立【五谷中学校】。例の、金髪細眉赤唇のヤンキー時代だ。と言っても下っ端だったらしいが。集合写真は男女に別れて縦に四列に並んでいる。このページの右上にある丸い円の中に穂積弥生は居る。


 名前別で並んでいる写真も見てみた。穂積弥生…派手なのですぐに分かった。とはいえ、学級の半数以上が派手なのだが。弥生ほど、似合わない赤い口紅をつけた女子生徒は居なかったので見つけやすかったのだ。

 このページには一応、他の生徒と共に並んで写っている。


 小学校のアルバム写真と比べてみる。どうみても別人だ。弥生は中学に入って少し体重が増えたようだ。そして刺すような目つき。弥生は、小6から中3まで、誰にもみつけてもらえなかったのかも知れない。


親には期待ができないとして、他の誰か…例えば先生や福祉が弥生の状態に気づいてあげていれば弥生は悪い方向へ向かわなかったのではないか。それも時代の違いで、難しいのかな。弥生はため息をついた。


 五谷中学校もパソコンで調べた。以前は荒くれた学校だったと優子が言っていたが、今は校舎も立派に新しく改装されていた。


 百合華は、五谷小学・中学校の住所を控え、明後日の土曜日に車でそれぞれの学校を訪ねてみようと思った。無いかもしれない、が、もしかすると何らかの情報が得られるかもしれない。


 少なくとも、弥生が暮らした学校をこの目でみることができる。

 弥生が奇異(きい)の目でみられ、(さげす)まされても、異質な行動を取っていた、時代の痕跡を。

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