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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
第2章 平日
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04. 桑山

 こじんまりとした部屋で、デスクが向き合うように10台くらい横向きに並んでいる。壁には、地元の写真やポスター、雑誌の表紙や、訳の分からない仕事効率化理念などが貼ってあった。理念を作ったのは、やたらと彫りの深い課長桑山泰(くわやまやすし)。彼は赤鉛筆をクルクル回しながら、書類に目を通している。


 桑山は生粋の日本人だ。47歳独身。離婚歴については聞いていない。 


 彼はこの翻訳編集室をまとめるリーダー的存在だ。彼を編集長と呼ぶ者もいるが、大概の社員は桑山さんと呼んでいる。


 桑山の、書類を睨む目と濃い眉毛の間隔が近い。強面とも言える桑山は、実際怒ると怖い。だが普段は誰に対しても優しく、気を配れる男だ。人間の本性を巧みに見抜く目を持っているリーダーでもある。そしてメリハリがあるから、編集メンバーの足並みも揃うのだ、と百合華は考えていた。


 桑山は酒呑みで、バー・オリオンでもほぼ毎回会う。彼は誰とでも一緒に居られる性分らしく、社長と2人で飲んでいる時もあれば、新人に囲まれて飲んでいる時もある。ベロベロに酔っている桑山を誰も見たことが無い。


 百合華たちも何度か桑山と一緒に飲んだ。桑山は酒に飲まれることは無いので、いつも冷静に話を聞いてくれた。そして、編集室3階の今後の目標を熱く語ったり、若い頃はバックパッカーで世界を回っていた話などを聞かせてくれた。お金が無かったけど人々の温情で何度も救われた話を何度か聞いた。そういう経験があるからこそ、桑山には人を見極める目があるのかも知れない。


 桑山は英会話力は自信があるわけではないが、英検1級、TOEIC980点と、英語理解に不自由は無いらしい。かくいう百合華も、父親の仕事の関係で6年間米国に滞在したことがある。百合華はどちらかというと会話の方を得意としているので、執筆業務以外に電話対応なども任されることが多い。


 他の女子会メンバーも大学の外国語学科を卒業した子が多い。スペイン語や中国語などを操れる仲間の活躍を羨望の眼差しで見る百合華であった。


 百合華たちが勤める一個上の階、北方ビルディング4階では、主に雑誌【ぱんどら】の作成がなされている。地元の穴場を紹介することから【ぱんどら】という雑誌名がついたらしい。


 4階で雑誌【ぱんどら】がある程度できあがったら、3階の百合華たちの階に書類が降りてくる。外国の人々向けに編集する為だ。それぞれ役割があり1日の業務はそれをこなしていく。


 百合華が翻訳をする時は、直訳ではなく意訳をするよう心がけている。読んでいる人が面白いと思う方が重要だと考えるからだ。しかし時折意訳が過ぎる傾向があるらしく、桑山にはそれを何度か指摘されている。


 基本的に百合華はこの仕事が好きだ。仲間にも恵まれ、直属の上司とも相性がいい。そして自分のスキルを認められ、有効に使えている。

 社長が汗水流して作ったというこの会社を支える一因として、百合華は自分の能力にも、自分の立場にも、高いプライドを抱えていた。


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