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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
第4章 準備
39/232

39. カード3-2

 優子は次から次へと有益な情報をくれるが、百合華にとってはあくまでも質問は1つ。百合華が聞いたのは、「穂積怜との出会いの経緯」だ。だからこちらから質問はもうできない。

 それでも、優子は穂積怜の母親の話まで知っていて、それを隠さず話してくれている。まさか遡ってそこまで教えてくれるとは思っても無いありがたい事だった。今度屋上庭園の手入れの手伝いを志願しよう。


「それでね、小さくて汚いスナックの奥に居住スペースも散らかって足の踏み場も無かったんだけど、一応弥生の部屋っていうのがあって。2畳くらいの、ボロボロの畳の部屋だったと思う。小さな勉強机もあったけど、勉強はあまりできない方だったな。学校で先生に当てられても、「わかんなあい」ってぶりっ子口調で言って、それを男子が真似して笑ってたっけ。

 話は戻って、その弥生の部屋でね、いきなり弥生が上の服を半分くらい(まく)り上げたの。ギョッとしたわ。それで、ズボンも少し下ろして、「見て見て!」って笑顔で言うの。何かと思って見てみると、盲腸か何かの縫合痕。今でもわからないんだけど、何でそんなの自慢げに見せたかったのかわからなくて。どうリアクションしたかは忘れちゃった。

 居住スペースは猫数匹、5匹くらいかな。飼ってて、部屋で普通に排泄させてた。だから物凄い臭いで。でも猫のことも凄い自慢してたのを覚えてる。」


 穂積弥生の半生が、穂積怜の現在と繋がるのだろうか?親子なら繋がるだろう。百合華は黙って続きを聞いた。


「もっとギョッとしたのはね、「優子ちゃんはあたしの親友だから」って言われたこと!ほとんど会話もしたこと無いのに、何がどうしてそうなるの?って思って、呆然としちゃったわ。本当に本当に、(つか)み所のない変な子だった。」


 小学校高学年はそのような感じで、何度か弥生の家に誘われたらしく、優子は拒絶したいのは山々だったけど何かと理由をつけて優子を誘うので無下に断れなかったらしい。


 そして2人が中学校に進学した時…


「これがまた、1年と3年が同じクラス。縁があるって迷惑だとその時思ったわ。でもね、中学時代の弥生は、小学校とは変わっちゃったの。

 急に髪そめて、そう、彼女の母親みたくね、けばい化粧して。中学は制服だったんだけど、相変わらず汚かったけど、スカートの丈がやたら長くて、いわゆる不良になっちゃったのよ。というか彼女が不良グループに入っちゃったって感じだったけど。

 その時中学校は凄く荒れてて、校舎にスプレーで沢山落書きがしてあるような感じ?真面目な子は真面目なんだけど、落ち着いて勉強できる環境じゃなかったな。窓もしょっちゅう割られてたし、先生と殴り合いしている生徒も居たし。

 弥生は相変わらず血管が浮いた病的なルックスだったけど、一端の不良を気取ってた。でも不良仲間にも臭いとか何とか言われて好かれてなかったみたいだけど。」


「中学に進んで、けばくなった弥生と私はもうほとんど接触が無かった。弥生の行動も段々エスカレートして、学校にナイフ持ってきたり、窃盗をしたり、同級生恫喝してお金を巻き上げたりしていたみたい。そのお金か窃盗かで少しずつブランド物とか買い始めたみたいで、全然似合わないのにグッチのバッグとか見せびらかしてたわ。3年生の頃にはもう学校には来てなかったわ。」


 弥生の変貌ぶりは随分なものだが、初めて聞くようなことではない。人は変わるものだ。

 優子は続けてくれた。


「私は高校に進学したけど、あの子はしなかったみたい。というか、出来なかったのかな。たまに夕方位に地元で見かけたけど、相変わらず。香水で隠していても、臭いがプンプンしていそうな不潔感が取れてなかった。

 噂によると、弥生は彼氏を取っ替え引っ替えしていたみたい。二股なんて気にしない。全然美人じゃないのに、ただ棒のように細くて白くて、色気なんかなかったのに、なんでだろうね。って友達と話してたわ。きっと誘い方が巧かったんでしょうね、私に昔やってた風に。」


 優子の思い出話はまだ続く。メモを取る右手が段々疲弊してきたが、こんなチャンスは逃せない。百合華は必死にペンを動かした。


「で、何年後かに知ったの。弥生のお母さんは亡くなってて、弥生がスナックの名前変えて切り盛りしてるって。まだ若かったけど、お金も必要だったんだろうしね。お父さんは相変わらず飲んだくれてろくに仕事もしてなかったみたいだしね。

 スナックの名前を「スナック・弥生」に変えて、出資元は知らないけどカラオケ機材も置いて、店内が見違えるほど綺麗になったんだって。あ、これは「スナック・弥生」に代わってからそのスナックに顔を出した私の友人たちの話。まるで潔癖症のように、隅々までアルコール消毒してたって。

 そんな新・ママの姿を気に入って、客も少しずつ増えたみたい。カラオケができることも評判でね。そこそこの収入源にはなったはず。」


 スナック・弥生…、一体どこにあるんだろう。聞きたいけどルールによって聞くことは禁じられている。

 これだけ情報を貰っているのだから、贅沢は言えない。百合華は改めてペンを握りしめた。


「変化が起こったのが、スナック・弥生に代わってからよ。そのスナック、米軍基地の近くの路地裏にあったんだけど、噂を聞いた米国人たちがちょこちょことスナック・弥生に通い始めたみたい。

 そこからが衝撃。弥生はもう、白人男性に夢中になっちゃって、来た客のお気に入りリストまで作り始めたらしいの。これも友人の話ね。私はスナック・弥生には出入りしたこと無いから、又聞きになっちゃうけど。

 気に入った白人男性が来店したら、急変しちゃうんだって。笑っちゃうくらいに。露骨に他の接客と違って、気分を害してリピーターが減ったって話。でもその代わり、基地の方では噂が広がって、米国人が仲間を連れてくるから弥生にとってはウハウハだったんじゃない?」

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