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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
第3章 同僚
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31. 第一歩

 夢子の(いた)わりや親愛なる気持ちを裏切る形で、百合華は穂積怜に本当の自分の魅力を見せる、という目標を立てた。


 暴言を吐かれた翌日から、家に帰っても、仕事中も、そのことばかり考えていた。


 しかし同僚というのは厄介だ。どうしても穂積怜の姿が目に入って気が散る。今日はグレーのワイシャツに、濃紺のズボン、ちょっと長めの天然パーマの中に見える顎のラインが美しい。鼻梁が細くくっきりとした鼻は高くて顔全体のバランスを保っている。


 しかし、そんなことより憎い気持ちが勝っていた。百合華への暴言、弁当の扱い、そして謝罪の一言も無い穂積怜。勿論その日は穂積怜の弁当は持参しなかった。今日から彼はまた、昼食抜きの生活に戻るのだ。昼食代わりに煙草でもたらふく吸って身体にダメージを与えておけばいい。


 同時に、夢子の部屋で語った自分の抱負のことも考えていた。憎しみだけでは何も変わらない。でもどこから何をスタートすれば、自分磨きができるのだろう…。



 穂積怜に暴言を吐かれてから、美由紀やまりりん、正樹から、「しばらく会社休んだら?」などと心配のメールやLINEが入っていた。

 それでも通勤している自分は案外精神的にタフなのかも知れない。そこには、逃げられないという理由もある。へこたれていたら、傷ついたままだ。前へ進むため、百合華は毎日通勤している。


 あの暴言の日から、穂積怜とは目を合わせていない。会話もしていない。せめて「ごめん」くらい言ってもいいのにと思ったけど、穂積怜は言わない。

 その代わり、暴言の次の日約5千円がぶっきらぼうに百合華の机の上に置いてあった。弁当代のつもりだろう。こんなもの受け取れるか、と、怒りを込めて隣の机、穂積怜の机の上にぶっきらぼうに返しておいた。「結構です」というメモとともに。


 自分磨きをするためには、穂積怜が言い放った言葉の意味を正確に理解しなければならない。穂積怜は百合華のことを「人の気持ちがわかっていないクズ」だと言っていた。そこまで酷いことを、自分はしていたのだろうか?


百合華にとってはいまだに謎だが、悔しさや憎しみの気持ちに負けていては、穂積怜が放った言葉の真意を理解することができない。彼の言葉の意味を知りたい。それはつまり、彼自身を知ることに繋がる、と百合華は思っていた。


 百合華自身、何度も考えたことであるが、百合華は穂積怜のことをまだまだ良く理解していない。穂積データベースに入っている情報は、微々たるものだ。

 彼のことを語れるほど、彼のことを知りたい。彼の過去ごと理解したい。


 しかし、穂積怜のプライバシーを勝手に詮索して良いのだろうか。また大鉄槌が落とされて、今度は瀕死の状態になるかも知れない…と百合華は思った。


 怖い、腹立つ、憎い…でも、穂積怜自身の許可無くしては彼のことを探ることはできない。百合華は私立探偵ではなく、ただの同僚なのだ。ただでさえ秘密主義の穂積怜が許可する可能性は低いと思ったが、無許可で遂行するのはデリカシーに欠ける。それをまた罵られるのだろう。


 自分磨きの第一歩は、穂積怜に穂積怜のことを調査しても良いか、許可を取ることだった。


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