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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
第3章 同僚
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27. 決意

 初めて穂積怜に弁当を食べてもらった翌日からは、穂積怜と一緒に昼ご飯を食べるという難易度の高いミッションが百合華を待っていた。


 仕事帰りにいつも女子会メンバーで会うバー・オリオンに夢子たちと集合した時も、百合華は心ここに在らずだった。


 しかし…百合華はマイナス面を気にしてしまった。

 どうしても自分のイメージを崩したくない。幼少期からチヤホヤされ、成功の道を順調に歩んで来た、皆の憧れの存在。倉木百合華はそんな存在であると自負していた。だからこそ失敗が怖い。拒絶が怖いのだ。


「百合華の作戦第1号、成功に乾杯しよー!」

 夢子が陽気に言う。


 皆でそれぞれが注文したアルコールを持ち上げ、「カンパーイ!」と声をあげた。百合華以外は。



「どしたの?百合華。百合華の成功を祝ってるのに。」


 夢子が不服そうに尋ねた。


「今日は確かに成功。でも次は…」


「正樹が言ってたように、当たって碎けろ!だよ!プライド高い百合華には難題かっ…。」


 流石に夢子は良くわかっている。

 そして、神保正樹はもう正樹呼ばわりになっているらしい。


 それでも、着実に近づいている百合華と穂積怜の距離が壊れるのが、やはり怖い…。

 自信家というのは怖がりの裏返しなのかな…最近は弱音が出てくる事の方が多いと百合華自身気がついている。


 女子会メンバーがお酒をチビチビ飲みながら、それぞれが談笑しているところに穂積怜と神保正樹が入店してきた。新しいバーテンダーは穂積怜の事を知っているようで、頭を下げた。


 穂積怜と正樹はカウンターを目指し、店内を斜めに横断した。

 そこには社長である織田恭太郎と、夫人の優子、そして桑山が既に飲み物片手に語らっていた。穂積怜らが合流すると「おお、座れ座れ」と社長が言っているように見えた。


 正樹は社長と飲むのは初めてなのか、緊張して動きがカクカクしている。恐縮して、ロボットのように社長に頭を何度も何度も下げていた。そんな正樹を見て、桑山たちは笑っていた。

 穂積怜は笑っているかな?注目すると、笑顔こそ無いものの、小さな弟を見るような目で正樹の事を見ていた。


 穂積怜はちょび髭店長と会話をし、その後新しいバーテンダーとも何やら談話をしていた。

 ビールがそこに居た5人に配られ、5人で交互に乾杯をしている。


 正樹は酒に弱いのだろう。ビール一杯飲んだだけで、妙にハイテンションになっていた。暗いバーの店内でも、顔がほんのり赤く見える。そして段々と饒舌になっていくのが見て取れた。



 まさか神保正樹、今日の手作り弁当の話を社長や社長夫人、そして課長の前でしたりしないだろう…ねえ、正樹君、頼むから黙ってて…!

 彼らが笑う度に、弁当話か?とハラハラする百合華であった。


「百合華さーん?もう、今日は穂積怜しか目に入らないの?」夢子だ。


「違うの、ごめん。でもほら、お弁当の事とか社長に話しちゃうんじゃ無いかって…正樹君酔ってるっぽいし(笑)」


「あーらら、ほんとだ。あれは酔ってるね。でもま、話しちゃったらそれはそれで、いいんじゃない?堂々と2人でお弁当食べれるし。むしろ喋ってもらった方が楽だよ。ねえ?美由紀?」


「一時の恥よ!大丈夫、大丈夫。」


 皆して結構適当な気がする。だが気がかりなことに、いつもはよく喋るまりりんが会話に入ってこない。


「まりりん、どうしたの?」


 聞くと、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに話を始めた。


「あたし、今日確信したんだけど…やっぱり正樹君の事が好き。特別に思ってる。年下だけどどうしても彼と付き合いたい。結婚も視野に入れてる。あたし、告白するよ。だから、百合華も躊躇しないで、やれることを精一杯やろうよ!ね、同士として!あたしは本気の本気だから。」


 結婚も視野に入れているとは…だいぶ飛躍している気がしたのは百合華だけでは無いらしい。皆、目が点になっている。しかし百合華は羨ましかった。もう行動を決心して、前へ進もうとしているまりりんを尊敬した。


 その時カウンター席の方から、わははははは、という男達の笑い声が聞こえた。どきりとして見てみると、社長が穂積怜の肩を何度も叩きながら笑っていて、ほかのメンバーもケラケラ笑っているのだ。


 ついに弁当の話がバレた。百合華は確信した。


 そんな百合華に気づいた夢子が話を戻した。


「じゃあ、まりりんはまさに当たって碎けろ!するわけね、彼に。そんなに彼にゾッコンなのは初めて知ったわ、びっくりした〜。でも上手くいくといいね、いつ告白するの?」


 まりりんは即答する。


「明日よ。明日。決めてたことなの。明日は百合華も闘いの日だから、お互い全力で頑張ります!」


 何故だか百合華も全力で闘うことを宣言されていた。

 告白するよりは、一緒に弁当を食べることを打診する方が軽いかも知れない。

 まりりんが頑張るなら、百合華も負けないよう頑張ろう。そう思えた。


 バーを後にして、夢子と他愛のない話をしながら、頭の片隅では明日の弁当のレシピを考えていた。一緒に食べるのだ、高品質な弁当でなければならない。


 その晩は案外あっさりと弁当の内容は決められたが、万一一緒に食べれるとしたら、何を話そうと考えるとまた緊張してきた。


 プランを練り過ぎても、完璧にそれが遂行されないことは証明済みだ。

 あとは明日の運を信じよう。百合華はまりりんの気迫あふれる発言を思い出しつつ、自分も頑張るよ…と心の中で呟いて眠りに就いた。

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