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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
エピローグ
232/232

282. エピローグ

 心地良い音が耳に届いてくる…ゆっくりと、リズミカルに。

 意識が戻ってくるにつれてその音は少しずつ近づいてきた。


 ザザン…ザザン…


 百合華が目を開けると、全く知らない場所に来ていた。ブランケットがかかっている。この車は…ボルボ240だ。怜は運転席にいない。


 前を見ると、そこには海が広がっていた。とても綺麗とは言い難い。潮の香りが鼻を刺激する。


 百合華は寝ぼけた頭で覚えていることを思い出そうとした。ピザを食べてカプチーノを飲んで……ボルボに乗って……そこからほとんど覚えていない。そうだ、宿泊をどうするか聞いたんだ、そして怜は運転を続行すると言っていた気がする…。


 百合華は自宅へ戻る一歩手前の、ボルボ240の車内で、緊張からの解放と旅の疲れで一気に脱力してしまったのだ。そして気がつけば今、1人ボルボの助手席で…何をしているのだろう。


 海が見え、コンクリートの地面が見える。

 小規模な埠頭だろう。広い海の向こう岸にはコンビナートらしきものが小さく点在しているのがかろうじて見える。そのコンビナートの周辺は白んでおり、秒単位で赤く染まっていく。朝6時。怜はどこへ行ったのだろう。


 助手席を開け外へ出ると、車の後方から怜が歩いてきた。



「やっと起きたか。」


「すみません、すっかり眠ってしまいました。ここは…?」


「ここ?知らない?」


「埠頭ですよね…でも初めて来ました。」


「それはそうだろうな。」


「……どういうことですか?」


「ここが、俺が来たかった2箇所目。」


「えっ。ここどこなんですか?」


 怜は歩いて埠頭の先まで行った。百合華は慌てて追っている時に、気づいてしまった。車、海、埠頭…


「ここは……」


「察した?そう。蓮とももが殺された場所だ。」


「………。」


「今まで一度も来れなかった。」


「そうですよね…。」


「時間的に、花束売ってる花屋が無くて。」


「怜さんの気持ちだけで充分だと思います。」


「ああ。俺もそう思うことにした。」


 2人は埠頭の先端で、海を眺めていた。怜が飛び込んだらどうしよう…以前織田社長から聞いた話とシンクロする気持ちだ。


 いつの間にか太陽は半分以上上がっていた。今まで見たことのない、真っ赤で大きな太陽だ。一瞬見ただけで残像が残る。


「すごく神々しい太陽ですね。輝く海の光がきれい…」


 ですよね?というつもりで怜を見上げた。すると怜も百合華を見ていた。怜の薄いヘーゼル色の瞳は太陽を受けて黄金に輝いていた。憂う瞳は希望も(たた)えているようにも見える。怜の瞳の力も変わった気がするのは、朝日のせいだけではない気がした。


「怜さん、朝日。目に焼き付けましょうよ、一緒に。」


「ああ。」


 2人は秒毎に昇っていく太陽を見つめた。


「目が眩むな。」


 2人で笑った。


「じゃあ、朝日を浴びて輝く水面を見ましょうか。」


「きれいだな。あれが1人1人の人生か。」


「え?」


「なんでもない。」


「蓮君と、ももちゃんのご冥福をお祈りします。」


「ありがとう。あいつらとは、ここで一旦お別れすることにした。」


「え?」


「俺は1度、ここで死んだんだ。蓮やももと一緒に。でも1人だけ生き延びた。蓮とももを追い求めて、ずっと死をも追い求めていた。でも今日俺はここへ、もう一度生き延びに来たんだ。蓮とももは俺の心でずっと生きている。俺が本当に、あいつらに会いにいくまでは。」


 朝日は完全に丸い形をしてグイグイ空を昇っていく。



 怜が百合華の手を握った。


 百合華も強く握り返した。涙が出そうだった。


 2人は指を絡める形で手を握り合った。






「…さあて、今日も『生きよう』かな。お前のために。」


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