272. ホームセンター
2人はスーパーを出た後、車で昼食を摂ることにした。涼香が朝作ったサンドウィッチだ。
「美味しいですね…相変わらず。」
言葉を発した時には怜は食べ終わり水筒のお茶を飲んでいた。
百合華は気にせずに、一口一口を堪能していた。
「怜さん、やっぱり、あなたは違うと思う。」
「突然なんだよ。」
「万引きも、最後の最後まで踏みとどまった。あなたには、良心がある。そう、『良心』が。そこが弥生さんとか、その両親とかとの違いじゃありませんか?」
「良心に負けてしまって、最後に実行したんだけどな。」
「未遂でも、確かに褒められることでは無いと私も思います。
でもこう考えてみてください、飢えて苦しんでいた少年が、盗れば簡単に手に入った商品を取らずに飢えたままでいた。こんなに弟・妹思いの兄が、盗みはしなかった。ジャン・ヴァルジャンとは違う。」
「またレ・ミゼラブルか。」
「あなたを踏みとどめさせていたのは、母・弥生の『いつでも見張っている』という脅迫も一因かも知れない。でも、そもそも良心が無ければ、そんな言葉無視して安易に犯罪に走ると思うんです。」
「うーん……」
「相沢さんが現れて、瓶を落として割れてしまったのも、あなたに悪への一線を超えさせないための運命だったのかも知れませんね。」
「運命ねえ………。」
「怜さんは、生まれながらに良心を持って生まれたのと、運命に守られた。だからって苦しみが消える訳では無いのはわかっているつもりです。でも、下手したら怜さんだって今ごろ『良心』を忘れた、もしくは育たなかった大悪党になっていたかも知れませんよ?」
百合華はやっとサンドウィッチを食べ終えて、お茶を飲んだ。
「美味しかった。ごちそうさまでした。」
「ちょっと車走らせていいか?」
「もちろん、どうぞ。」
行き先はいわずにボルボ240はスーパーを後にした。
二車線道路を走りながら、怜はしきりに右側を気にしている。
「あった、よし。」
「何がですか?」
「俺が行きたいと言った場所だよ。今日は他に寄るところ、無いよな?」
「そうですね。」
「じゃあ、ホームセンターを探すのを手伝ってくれ。」
「ホームセンター?」
「ホームセンターならある程度でかいだろうから、あればすぐ見つかるだろ。」
20分位、雑談をしながら車を走らせていたら大きなホームセンターにたどり着いた。五谷は土地が余っている分、新しくできた商業施設は規模が大きい。
ホームセンター【バビンズホーム】は、異様に横に長い1階建の建物だった。怜は正面の自動ドアから中に入る。百合華はその後を追った。
「何を買うんですか?」
「内緒だ。」
「いや、一緒に居るのに内緒にする意味無いじゃないですか。」
「じゃあお前は外で待っとけ。」
「私へのプレゼントならホームセンターじゃ無い方が…」
「それは絶対に違うから、外で待っておけ。すぐ終わるから。」
百合華は元々ホームセンターが苦手だったので、大人しく外で待っておくことにした。工具や材木にあまり興味が無いのだ。
待っている間、夢子にLINEをした。
————そっちどう?迷惑かけてない?
————そんなに日常と変わらないから心配しなくていいよ。そっちは順調?
————うん、予定より早く戻れそう。本当、ごめんね。
————任せて。今込み入った仕事無いから、本当大丈夫。気をつけてね。
————ありがとう。感謝、感謝、です。みんなに宜しくね。
————了解!
LINEが終わって少しすると怜が少し大きめのレジ袋に入ったものを持って帰って来た。どうやら商品は一つでは無いらしい。
「何ですかそれ。」
「だから内緒だって。いいから車に乗れ。」
怜は買ってきたばかりの商品を後部座席にそっと置いた。中身を百合華に見せないように。
「ここが、怜さんが行きたかったところですか?」
「違うに決まってるだろ。」
「じゃあ、そこに今から?」
「いや、もう遅いだろ。明日そこに寄らせてくれ。」
「怜さん、寄りたいところ2つあるって言ってましたよね?そのうちの1つですか?」
「ああ、そうだ。」
「じゃあ今日はもう、終わりですか?」
「五谷ももう終盤戦だ。俺は悔いが無い程ハンバーグが食いたいな。」
「じゃ、行きましょうか。」




