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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
第3章 同僚
22/232

22. データベース

 宏美が離職して、数ヶ月。


 その日は仕事中、なんだか集中できなくて色々な事を考えていた。


 宏美に生まれた赤ちゃんは女の子で、ご主人の苗字が高山だったので、高山類(たかやまるい)ちゃんと名付けられたらしい。職場に送ってもらった写真を見てみると、まだまだ新生児の顔をしていて、宏美に似ているのかわからない。

 宏美は特徴の無い顔をしていたので、似るも似ないも無いのかも知れないが…。

 特徴は無くても、百合華は宏美の笑顔が好きだった。笑顔の似合う女の子に育って欲しいな……写真から目を離しながら百合華は願った。


 デスクに戻ると、写真には微塵も興味を示さない穂積怜が不機嫌そうに座っていた。双方は、職場での付き合いが長くなり、その間感情的な衝突もあった分、以前からは信じられないくらいコミュニケーションは取れるようになっていた。


「穂積さん、どうかした?」


「別に………。」


 穂積怜は自分の仕事用の資料を並べ始め、そちらに集中し始めた。


 今更ながら思うけど、穂積怜は何故、プロジェクトの時に乳幼児向けの本を作ることにあそこまで反応したのだろう。


 宏美の産後の写真にも無関心で、それに群がる同僚の姿が視界に入るだけで苛々しているように見える。



 ————穂積怜は、子どもが嫌いなのではないか?



 百合華はなんとなくピンと来た。

 しかし確証を得られるほどの事由が無い。


 1つの可能性として、それを頭の片隅の穂積怜データベースに入れておこう。



 女子会メンバーは4人になってしまったが、仕事が定時で終わるようになった今、終業後はまたバー・オリオンで飲む事で、1日の疲れを癒し、締めくくる儀式が再開された。


 メンバーが女子、4人居るというのに、新しいバーテンダー浅倉は百合華のことを「美人さん、美人さん」と特別扱いした。

 他の3人は気を悪くしていないだろうか…。気にはなるが、特別扱いは百合華にとって甘い蜜だ。3人の前で言われるからこそ感じる優越感が何とも言えない快感だ。しかしそんな本音は決してバレないように、謙虚に計らう。それが百合華の生き方だった。




 昼には雨の日以外、4人は屋上庭園でお弁当を食べた。百合華はもともと料理が好きだったのと、節約のために手作り弁当を持参していたが、他の3人は近所のコンビニで弁当を買っていた。


 ある日、屋上庭園へ上がると、階段から1番奥に変なパーテーションが置いてある事に気づいた。


「何あれ、見てくる。」まりりんが早足で近くと、こっちを見て「うえー!」と言った。すると、パーテーションの横から、桑山が顔を出して女子会メンバーの方を見た。


「ああ、夫人に頼んだんだよ、ニーズがあるから喫煙所を設けてくれって。」


 最初は夫人に猛反対されたらしい。

 が、喫煙者である社長も喫煙所設置に賛成していた。

 仕方なく1番遠いところに小さな喫煙所を設けたらしい。


「風で煙がそっち行かないよう気使うから。許せ。」


 桑山がニヤッと笑い、パーテーションの中に顔を隠した。


 折角の自然感溢れる幻想的な屋上庭園が、人工的なパーテーションのせいで不均衡を起こしている。


 その日は屋上庭園に社員が多く居て、テーブル席が全て埋まっていた。

 仕方が無いので、4人は、屋上をぐるりとお囲むセメントでできた細長い花壇の(ふち)に横に並び、座った。花壇にはローズマリーがたわわに植えてある。触れると良い香りがした。4人は膝の上にお弁当を置いて「いただきます」をした。


 んー美味しい〜、などと4人で舌鼓を打っていると、喫煙所から穂積怜が出てきた。彼も喫煙者なのか。続いて新人の神保君も出てきた。最近の様子を鑑みる限り、穂積怜は神保君と1番仲が良いらしい。年齢の壁を越えて男同士の友情を育むのも良い事だ、と百合華は思った。


 最近まりりんは、穂積怜よりもっぱら神保正樹に心を奪われている。穂積怜の言葉にわははと声を上げて笑う神保は、確かに所謂(いわゆる)イケメンだった。


 だが百合華の趣味には合わない…というか年が下過ぎる。だったら年上でも、難があっても、穂積怜の方がまだ好みだった。


 女子会メンバー4人で弁当をつついていると、穂積怜と神保正樹が前を通り過ぎた。と思ったら、穂積怜が3歩ほど下がって来て、百合華に向き合った。


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