表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
第15章 二人旅
211/232

241. 相沢茜宅

「暗くて辛い旅になるかと思ったけど、思った以上にお前がバカだったから楽しめる部分もあるよ。」


 定食屋に入り、日替わり定食にがっつきながら怜は言った。


「バカ、バカって失礼ですね。」


 百合華はアジのフライセットを食べている。


「お前、無理してないか?」


「何がですか。」


「俺が落ち込まないように…その…」


「バカやってるって?ちがいますよ。」


「そうか。本物のバカなら、安心した。」


 2人は定食屋を出てボルボ240に乗り込んだ。


「この車に乗れるようになるまでの苦労も、織田社長から聞きました。」


「その話も聞いたのか。」


「はい。」


「俺はこの車、凄く気に入ってる。」


「私も好きですよ、このボルボ。」


「本当にわかってんのかよ。」


「怜さんの思い入れと、良いアジが溢れ出しています。」


「わかってんだか、どうだか。そろそろ相沢宅に向かってもいい時間じゃないか?」


「そうですね、行きましょうか。」


「場所は知ってるから、お前のへたくそなナビはいらない。」


「………。」


 怜は言った通り場所を覚えていたらしく、すぐに目的地に到着した。真っ白な外観。白い鉄製の門扉の上にはモッコウバラのアーチができている。



 百合華は相沢宅のチャイムを鳴らした。「はーい」という上品な声が聞こえる。


「先日、穂積怜さんの件でお話を伺いに来ました倉木百合華です。」


「ああ!倉木さんね。ちょっと待ってね、今開けるから。」


 白いドアがゆっくりと開く。中から相沢みどりが顔を出した。


「先日はお世話になりました。これ、つまらないものですが…。」


 西脇まんじゅうを渡すとみどりは「わざわざありがとう。」と笑顔を見せた。そして百合華より少し後ろに立っていた怜に気づいた瞬間、みどりの顔が硬直した。


「あなた、穂積君?穂積怜君なの?」


「………はい。」


「と、とにかく、どうぞ、お二人共、中へ入ってちょうだい。今日はちょうど茜も来ているの。」



 ———相沢茜が家に居る。



 西京の商社で勤務しているという茜が月曜の昼間に実家に居る。有給でも取っているのだろうか。


 2人が部屋に入り、出されたスリッパを履いていると、みどりが「茜!茜!!」と声を張り上げた。


「何〜?」と奥から女性の声が聞こえる。


「大変よ、お客様がいらっしゃったの。以前お話した倉木さんと…もう1人…。」


 茜と呼ばれた女性は、一言で言うならば魅力的な女性だった。

 百合華を一瞥し、その後怜を見た途端、茜もまた目を大きくして息を飲んだ。


「嘘……嘘でしょう………?穂積……君?」


「ご無沙汰……してます。」


「信じられない!予想もしなかった。え!嘘でしょう!!」


「まあ、立って話すのもアレだから、皆さん座って頂戴。お茶を淹れるわね。」


 茜とみどりは極端なくらいに動揺している。

 みどりは3人にソファを促し、自身はキッチンへと向かった。


 怜と茜、2人とも緊張しているのが百合華にはわかる。

 どちらが先に口を開くだろうと思って見ていたら、それは茜だった。


「良かった。今日はたまたま会社休みで実家に顔見せに来てたの。結婚して子どもも居るから滅多に1人で来ることは無くて……本当、偶然。」


 怜は黙ったままだ。


「随分、背が伸びたんだね……洗練されて雰囲気変わったけど、やっぱり面影はあるね。」


 怜はうつむいたままだ。


 沈黙が始まる。


 百合華が沈黙を破った。


「先日は、お母様に色々情報をいただきまして、本当に助かりました。」


「ええ、母から電話で聞いています。」


「あ、茜さん、申し遅れました。私、倉木百合華と言います。穂積さんとは会社の同僚です。」


「相沢茜です。西脇からいらしたのですか?」


 西脇まんじゅうの袋を見て茜が言った。


「はい。西脇に行かれたことは?」


「もちろんありますよ。最近は随分盛り上がってきていますよね。出版社の方と母から聞いていますが、どのようなものを出版されているのですか?」


「主に地元、ローカルの穴場スポットなどの紹介などをしています。」


 何気ない会話の中、怜は言葉が出ず本人を含め皆が当惑していた。すると突然、怜が立ち上がり、フローリングの床に正座をして茜の目を見た。


「その節は……あんな事に巻き込んでしまい、申し訳ありませんでした。そして今日までなんのお詫びも、お礼もできず、本当に申し訳ありません。」



 ————穂積怜が、土下座をした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ