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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
第3章 同僚
20/232

20. 順調

 桑山に相談してから(しばら)くたち、百合華は百合華でプロジェクト進行をいかにスムーズに進められるかを自分自身で考えた。


 穂積怜は、なぜプロジェクトをそこまで嫌がるのか。推測だけでは何もわからない。



 休日、家でのんびりとそんな事を考えていると、夢子から電話が入った。


「もしもし、百合華。今日空いてる?」


「空いてるよ〜、どうしたの?」


「ランチでもどう?今日は2人で。」


「うん、いいね。じゃあ、いつものカフェでどう?」


「いいね。じゃあ、12時頃、そこで。」


 お昼になり、夢子と落ち合った。それぞれ注文をして、暖かいので外のテラス席を選んだ。


 話題は勿論穂積怜のことだ。


 夢子が口を開く。


「正直穂積怜があんなに豹変するとは思わなかったの。最近百合華顔色悪いし、色々背負いこみ過ぎてない?リーダーだからって、全部のダメージ受け止めなくても良いんだよ?」


「うん…ありがとう。ちょっと前に桑山課長にも相談して似たような事言われた。

 とりあえずプロジェクト優先だっていうことは間違いないから、穂積怜の事で頭抱えてる場合じゃないんだけどね。うちのグループはプロジェクト遅れてるから…それが気がかりで…」


「ねえ、一層、リーダーの権利使って、彼を一旦外してみない?プロジェクトに関連する事で他にも仕事あるじゃない?例えば今は、石谷さんが担当してる会計を交代してもらうとか…」


「あっ、そんな手もあったかー!最近頭ぐちゃぐちゃで働かなくて、柔軟に物事を見られなかった。夢子、それいいアイディアかも。さっそく桑山課長に打診してみるね。」


「そんなにスムーズにアイディアが通るとは思わなかった(笑)けど、力になれたなら、何よりです。じゃ、今日は仕事の話は終わり。楽しい事話してリフレッシュしよ。」



 夢子の提案と、その後の雑談は、暗礁に乗り上げていた百合華にとって大きなモチベーションとなった。



 休み明け、早速桑山に打診すると案外あっさりOKが出た。桑山自身もその方がベターだと思っていたらしい。


 穂積怜に事の説明をすると、本人も「その方がいい」と即答した。

 よほどプロジェクトに直接関わるのが嫌だったのだろう。



 その日から平穏が訪れるようになった。

 プロジェクトメンバーからも新しい発想などが次から次へと出てくるようになった。


「子供向けだから、文章だけじゃなくて仕掛け絵本みたいにするのはどうでしょうか?親にも子にも楽しめるかも…。」


「仕掛け絵本はすぐ壊されちゃうと思います。」


「だから、壊れないような絵本を作るんですよ。」


「結構予算かかるんじゃない?穂積さん、今の所予算どんな感じ?」


 穂積怜は細長い綺麗な指で、大きめの計算機を叩いている。

 それも計算機を見ずに、手元の分厚い会計関係の資料を目で追いながら電卓を叩いているのだ。器用だなあ…と百合華は思った。


 そして少しだけ、バーテンダー時代の穂積怜の、気品のあるカクテル作りを思い出した。もっとも、シェーカーを降る穂積怜は今と同じく無表情だったが。



「どんな感じでその頑丈な仕掛け絵本を作るのか、もう少し具体性が無いと何とも言えないけど、過去に違うジャンルで仕掛け絵本を作ってヒットした事があるらしい。それによると、今の予算内でギリギリ収まりそうだ。」


 この間までの鈍行列車が、快速急行に変わってきているのを百合華は肌で感じた。穂積怜は最初から会計を担当していれば良かったんだ。


 こうしてプロジェクトはみるみる内に進行し、納期に間に合う形で一通り完成した。あとは課長や、他の校正係の仕事になる。



 プロジェクトが一旦落ち着いたところで、朗報が1つ入った。

 社長夫人である優子がリハビリをかねて作っていた屋上緑化が完成したらしい。優子はそれを屋上庭園と呼んだ。


 桑山がアナウンスをした。

「屋上庭園が今日から利用できるようになった。メンテナンスは社長夫人がするらしい。皆マナーを守って使うように。使用できる時間帯は昼休みと、仕事終了後1時間だ。エレベーターでは屋上まで行けないから、階段で登るように。以上。」


 編集部女子会である5人は顔を見合わせ、「今日はお昼、そこで食べてみない?」と誘いあった。

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