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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
第2章 平日
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02. 百合華

 自覚していることがある。倉木百合華は結構な自信家だ。プライドも高く、自己肯定感も高い。


 小さな頃から容姿のことは繰り返し褒められて育ってきた。大人になってからもそうだ。学生時代は百合華のファンクラブがしょっちゅうできていた。


 常にまわりに人が溢れていて、百合華のファッションや所作を真似して似非百合華を演じている友人が何人もいたことに百合華は気づいていた。


 また、百合華は何に関してもそつなくこなし、運動神経も抜群、学力も学年でトップクラスだった。大学も国立の有名な大学に入学し、そこでも同じようにファンクラブができていた。告白されたことも幾度となくある。自分から告白した経験は1度も無い。恋人に不自由したことはなかった。


 すれ違う他人から「かわいい〜」「きれい〜」「いい香り〜」などと囁かれていたのも気づいていた。


 そう、百合華は、百合華のことが大好きだった。

 こんな自分に生んでくれたことを両親に感謝していた。


 モデルのミキちゃんに似ているというのは、ミキちゃんが大ブレークした頃から言われていた。ミキちゃんは美人なので、百合華は悪い気はしなかった。遊び心で、少しミキちゃんのメイクに寄せてみると、その日は「ミキちゃんにそっくり!」という言葉が飛び交っていた。


 でもあまり調子に乗るとイメージが下がる、そう推察した百合華はいつも謙虚でいるように努めた。計算尽くだ。


 高嶺の花になってしまうと実はあまりモテない。綺麗だけど手の届く存在できたいと百合華は考えてきた。


 就職の時に、自らのイメージを崩さないように、外資系企業に就職する予定だった。

 ところがある日、織田出版(おりたしゅっぱん)の翻訳編集者募集の案内を見た。



 今でこそ、自分が通る道を人々は道を開け、百合華を崇め、残り香を楽しまれるような立場にあるが、百合華にも暗い過去があった。いじめだ。


 どんなに隠そうとしても、出る杭は打たれる。屈辱的なことをされ、侮辱されたこともある。それらは百合華のプライドをズタズタに傷つけた。


 いじめを受けて引きこもりになっていた頃、母親がドアの下からローカル雑誌を差し入れしてくれた。何故ファッション雑誌ではないのかと腹が立ったが、パラパラと(ページ)をめくると美しい写真が何頁にも広がっていた。

 これはどこの景色だろう、ともう一度最初の頁を開くと、百合華の住む【地元西脇市の名所】と書いてある。うそでしょ、西脇にこんな綺麗な地域があるの?百合華は夢中になって雑誌を読んだ。写真を愛でた。案外近くにも、穴場スポットはあるんだ…初めて知った。


 明くる日も雑誌を開いた。絶対にこの景色をこの目で見てみたい。カメラを持っていかなきゃ。行くのは季節と天気の良い時が良い。


 それが、その翌日だった。カメラを持って地元を観光するのは妙な感じがしたが、約半年ぶりの外気は肌に心地よかった。さっそく最寄りの青い泉のような岩場に隠れた池を見に行った。雑誌の写真よりは小さかったが、それでもその美しさに心奪われ、何枚もシャッターを切った。

 こんなことをするキャラクターじゃなかったのに、と苦笑しながらも、母が差し入れてくれた雑誌に感謝した。

 あれは、あえてファッション誌じゃなかったんだ…。

 母の作戦にまんまとはまってしまった。


 その雑誌を出版していたのが織田出版という会社だった。

 外へ出れるようになってからも、地元密着型雑誌は定期的に購入した。織田出版だけのものを。


 外資系企業も捨てがたかった。華やかでシャープなイメージで自分には似合っていると思った。

 でも自分が一番辛かった時を救ってくれた織田出版がちらちらと頭をよぎっていた。



 百合華は家庭の事情で6年間米国で生活した経験がある。翻訳編集者の募集なら、自分のスキルも活かせる。もちろん、外資系企業も同じだろうが…。


 面接で決めようと思った。

 外資系企業での面接では、「君以上のレベルの人材は山ほどいる」と言われた。


 一方織田出版では、「君以上の野心家はいない。」と言われた。

 話は簡単だった。織田出版に就職をすることを決めた。


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