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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
第15章 二人旅
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229. 探索

「そういえば、駅前に古着屋があったはずなんだけど…」


 怜はそう言うと、ロータリーに停めたままの車から降りて周囲を見回した。


「凄い変わりようだな、銀行にコンビニにクリニックか……こんなの前は全然無かった。昔、処分品の服を安くで買ったことがあるんだ…人の金でだけど。その店はもう潰れたみたいだな…。」


「人の金というのは、誰のお金か聞いてもいいですか?」


「相沢茜だよ。」


「やはりそうでしたか。今回の旅で、相沢邸にも寄ろうかと思っているんですが、良いですか?」


「え…そうなのか。俺相沢には合わす顔がないんだけど。」


「茜さんがご在宅かどうかはわかりませんが、お母様には以前お世話になったので…。」


「わかった。ところでこの旅って突然始まったけど、プランってお前が全部立ててるの?」


「そういう訳じゃありません。でも最低限寄りたいと思っている場所はあります。怜さんが気になるところや寄りたい所は遠慮なく教えて下さい。そんな感じでどうですか?」


「まあいいけど…計画性があるんだか無いんだか…」


 そう言いながら、怜は変わった景色をぐるりと見渡していた。怜にとって五谷に戻るのは、保護されて以来だから25年以上経つことになる。たった5年、街を離れただけでも浦島太郎になることはままあるのだから、25年の歳月は衝撃的な変化があるに違いない。


 怜はしばらくそこから動かなかった。幼少期の景色を思い出しているのだろうか、今は声をかけずに怜の時間を大切にしよう、と百合華は思った。


 バウンサー…と、先ほど怜は言った。百合華には聞きなれない言葉だった。怜がキョロキョロと駅周辺を見ている間に、百合華はスマホで『バウンサー』を検索した。

 なるほど、バウンサーとは、赤ちゃんが座るベルト付きの椅子のようなものだった。赤ちゃんの重みや動きでゆらゆらと揺れるものもあるらしい。


 貧困を極めていた怜がこれを購入するために綾谷へ行ったならば…恐らく最低価格のものだろう。何の為に購入したのか。怜と蓮が学校へ行っている間の安全を確保する為と言っていた。


 ももちゃんはもう、はいはいや、歩くことが少しできていたのかも知れない。部屋はごみ溜めだったと聞いている。

 赤ちゃんのももちゃんが危険に陥らないように…小学生の怜は考えたのだろうか。


「怜さん、1人でバウンサーを買いに行ったんですか?」


「え?ああ。そうだけど、何で?」


「安いものでもそれなりの価格なのかなって思うんですけど、お金に余裕があった時だったんですか?買いに行ったのは。」


「まさか。俺たちに金の余裕がある時なんて1度も無かった。悩みに悩んで、ももの安全を優先して大枚(はた)いたんだ。痛手だったけど、学校から飛んで帰ってももが無事だと確認できたら、買ってよかったって思ったよ。」


「英断だったと思います。」


「じゃあ、その明美さんって人のとこ行くか。」


 百合華が道順を案内して、商店街へ向かった。途中、怜は「へえ」とか「うそだろ」とか声を出している。あまりの変化に驚いているようだ。

 以前、相沢茜の母が、五谷は辺鄙なところでスーパーも1つしかなかったと言っていた。今は道路も整備され、道路沿いには色んな店が並んでいる。怜が驚くのは無理もない。


 怜の驚きに拍車をかけたのが、五谷新町商店街だった。

 基本的には夜の街だが、色んなスナックや居酒屋が立ち並んでいる。怜の母親である弥生が営んでいたスナック弥生があった商店街は寂れてしまったが、代わりに現在はこちらが盛況しているのだ。


「なるほどな。こっちが今は盛り上がっている訳だ。」


「まあそうですね。前に五谷新町商店街の話はしましたよね?」


「忘れた。」


「……。私が『生まれ直した』と表現した場所です。」


「ああ、なんとなく思い出した。これが……それか。」


 怜は圧倒されているように見えた。スナック弥生があったスナック街とは規模が違う。思えば、百合華の調査も一か八かだった。この五谷新町商店街に初めて来た時、何となく一番老舗っぽいからという理由で入ったのがスナックのぶ絵だった。

 のぶ絵ママは既に亡くなっていたが、のぶ絵を継いだ明美ママの人柄が良く、調査にも協力してくれたのだ。


「怜さん、『のぶ絵』はあっちです。車はその辺に停めて下さい。」


 2人はスナックのぶ絵に向かって歩き始めた。

 外には明美の姿は見えない。店内で開業準備をしているのだろうか。


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