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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
第15章 二人旅
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227. 支度

 怜に送ってもらった百合華は織田夫妻に話を聞かせてもらったこと、共に生活を送らせてもらったことを深く感謝した。織田夫妻は目尻を下げて、またゆっくり話をしようと言った。


 自宅まで送ってくれると言って外で待っていた怜の車に乗り、自宅アパートへ向かった。


「五谷で宿泊させてもらうアテがあるんです。調査中も何度もお世話になったところなんですけど、きっとあの人達のことだから余程の事情が無い限り受け入れてもらえると思うんです。今日電話してみます。」


「へえ。じゃあ、土産が必要だな。」


「そうですね。お土産はできれば幾つか用意したいんです、向こうでお世話になった人が何人もいるので。」


「ふうん…じゃあ西脇まんじゅうでいいんじゃないか?」


「はい。あ、怜さんハンバーグは好きですか?」


「俺は嫌いな食べ物は無いよ。」


「じゃあ良かった。あと、もしかしたら無賃労働してもらうかもです。」


「何だよそれ?」


「行けばわかりますよ。」


「ふーん。」


 怜は百合華の家の横に車を着けた。


「で、明後日出発ってことだけど、俺運転でいいんだよね。」


「安全運転してくれるなら、はい。あと、車が…壊れなければ。」


「これは社長が一々メンテナンスに出してるんだ。」


「そうですか。じゃあ、お願いします。今日はありがとうございました。」


「じゃ、月曜。朝に迎えに来る。」



 怜は恭太郎のことを「社長」と呼ぶ。本当は「父さん」って特別な時は呼ぶくせに。照れ臭いんだろうか?百合華はそんな怜が少し愛しかった。


 ……愛しい?



 ついこの間、百合華は自分の怜に対する気持ちは『愛』なのかも知れないと思ったばかりだ。確かに怜と一緒に居ると心が弾む。もっと一緒に居たいと思う。できる限り接近したいと思う。しかしこれは『恋』と何が違うのだろう。


 そして問題なのは、以前、怜は『今、恋愛感情は無理』と言っていた。彼が何も思っていないのならば、片思いだ。


 以前の百合華だったらどうだろう。プライドの高い、人気モデルのミキちゃんに似ている、美意識の高い百合華だったら。

 手放しに片思いをするだなんて、プライドが許さなかったのではないだろうか。


 以前の自分の方が、側から見たら美しかったかも知れない。メイクにも力を入れ、鏡に映る自分に毎日自信を持っていた。


 今の百合華はすっぴんに近い薄化粧で、汗を流して西へ東へ奔走している。泣きたければ人前でも号泣するし、人からの印象を気にせずに思った気持ちを言える。

 何より、人に感謝する気持ちが、以前より格段に深くなったと自分でも考える。

 まだ足りないかも知れない。しかし、「当たり前よ」が「ありがとうございます」に変わった自分に、百合華は誇りを感じた。

 人間臭くて良いのだ。人に笑われても良い。自分らしくあれば。


 百合華は気を取り直して、竹内夫妻に電話をした。今回の旅の主旨を告げると是非2人で泊まりに来るようにと言ってくれた。「また忙しかったらお店のお手伝いもしますので」と伝えると喜んでくれた。涼香は本物の怜に会えることを喜んでいるらしい。夫文彦の面白くなさそうな表情が思い浮かぶ。



 その晩、『西脇まんじゅう』をいくつ必要かメモを取っていた。もちろんロルバーンのメモ帳だ。


 ー竹内夫妻

 ー明美さん

 ー相沢さん

 ーシゲさん

 ー植杉さん


 そして、


 石黒恵子さん…今日も花に水をあげたのだろうか……


 他にも何人か居るかも知れないから少し多めに買っておこう。



 翌日、百合華は西脇まんじゅうを必要分買って、旅の支度をした。

 それにしても、愛しているかも知れない男と2人旅だなんて、大胆なことをしてしまう自分に何度も驚いてしまう。

 どうせむこうはどうも思ってないのだろうから、こっちもなるべく無の境地で挑もう…その方が目が曇らないで済む。

 それに、下手な期待もしなくて済むからだ。

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