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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
第14章 親子
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224. 怜自宅・3

「………それで、倉木が辿ってきた道を俺が辿るっていうのは、どういう意味で言ったんだよ。ケリをつけるっていうのは、何にケリをつけりゃいいんだ?」


「物理的に、お前に、倉木さんが辿ってきた道を辿って来て見て欲しいということだ。そのままの意味だ。五谷に戻るのはお前にとって大きな挑戦となる。それが出来た時、怜にとって過去と折り合いをつける作業になるのではないかと思うんだ。」


「俺が…五谷(いつや)に?」


 五谷での生活は怜の人生にとって忘れたくても忘れられない呪われた日々だった。母親である弥生による育児放棄。貧困、飢え、死と隣り合わせの毎日を幼い怜は幼い弟・妹たちを守るために奔走した。


 あの頃の怜にあったのは、不安・苦悶・混沌・忍耐・焦燥感・そして恨み……

 心の拠り所は、弟の蓮と妹のももの存在、それだけであった。生きることを諦めなかった理由も同様である。


 今、姿を変えた五谷に行って、どうなる。蓮やももと生き延びたコーポ室井、潰れて更地になったというスナック弥生、五谷小学校…想像するだけで胸がざわつく。


 逃げている……確かにそうかも知れない。今日まで、五谷での出来事は考えないように蓋をしていた。そのまま人生を終えられれば良いと思っていた。

 今更掘り返すことで、本当に得られることがあるのだろうか。


 心の奥底でうごめいている(おり)が、少しでも清められる可能性があるのだろうか。


 いや、ちょっと待て。怜は思った。薬には効用もあれば副作用もある。自分が過去に生き延びた地に行って何かを得ることができたとしても、何かを変えることができたとしても、自分が失ってしまうものもあるかも知れない。例えば…正気。


 しかし……


「随分悩んでいるようだな、怜。それもそうだ、突然の話だからな。それも難題だ。すぐに答えを出すのは難しいのはわかる。

 けどな、怜、申し訳ないが、すぐに答えが欲しいんだ……。」


「なんで。」


「倉木さんにも同じことを頼んでいるんだよ。仕事を休んで、もう一度、今回は怜を連れて今までの調査で通ってきた道を旅してきて欲しい、と。倉木さんも考える時間が欲しいと言ったが、怜が行くと決めれば倉木さんもNOとは言わないだろう。」


「俺が断ったら…それは過去から逃げている…ということになる…」


 怜は独り言のように呟いた。


「今がチャンス……俺に、できるだろうか。正気を保って、折り合いをつけられるだろうか。折り合いをつけたら、その先に待っているものは何だ。人を信頼し、愛する人生か。そんなものいらないと俺は思っていた…が、それは本音なのか。俺は本当は孤独の中で…」


 1人孤独の中で自分の殻に閉じこもって泣いていたのではないか。

 人生を諦めて、命の終わりを待つだけの人生を送っていたのではないだろうか。


 五谷へ行ったら、もしかしたら、幼い頃の自分を励まし、慰めることが今ならできるのではないだろうか。


 わからない……わからない………



「今晩、ゆっくり考えて欲しい。明日、皆で話し合わないか?お前や倉木さんだけで抱えて結論を出す必要は無い。発案者である僕や優子も立ち会うよ。明日は土曜だ、時間はある。昼飯を食べて、13時頃、またここへ来る。いいか?」


「ああ……わかった。考えておく。」

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