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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
第13章 織田夫妻
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207. 織田夫妻・8

 織田恭太郎が言った。


「倉木さん、もうこんな時間だ。」


「本当、何かお腹すいたと思ったら8時ね。夕飯一緒に用意する?明日のお弁当、怜の分も作るんでしょう?」


「はい、一緒に作らせてください。」


 織田家の冷蔵庫は食材の宝庫であった。百合華の冷蔵庫とは大違いだ。


「私、あまり知らなかったんですけど、怜さんって肉食系なんですね。」


「まさにその通りよ。でも良かった。怜って、前はお昼ご飯食べなかったでしょう?それも、亡くなってしまった弟、妹に申し訳ないという気持ちで続いていた習慣だったと思うの。でもあなたが作ったお弁当を食べたって聞いて、驚きと同時に飛び上がりそうな程嬉しかったわ。」


「そうなんですね……あのー、優子さん、いいですか。」


「何?」


「怜さんとからあげって、何か関係ありますか?」


「怜とからあげの関係?……ああ!そっちの関係ね!あるわよ。その話はまた今度、かな。」


「やっぱり。じゃあ、今度、また聞かせて下さい。」


 2人は牛肉のアスパラ巻きとスープとサラダを用意した。


「明日のお弁当のメインはアスパラ巻きでいいかしら?」


「はい!曲げわっぱのお弁当箱、家から持ってきているんです。それ使ってお弁当作っても良いですか?あと、足りない分は、早起きして作りたいと思うのですが、宜しいでしょうか…」


「勿論よ。どれも自由にしてね。」


 百合華でも、織田邸に馴染むのに時間がかかるのだ。複雑な思いを持つ若かりし怜の気持ちを考えると慣れるまでには相当の時間を要したのではないかと推察した。


「ああ、倉木さん。実は僕ね、明日から2日間出張なんだ。だから、話はその後で良いかな。優子、勝手に喋るんじゃないぞ?」


「はいはい。待ってますよ。」


 風呂に入らせてもらい、部屋に戻った。

 大きな穴が、2つ。百合華には未知の穴が、2つ。穴を覗くと暗闇しかなかった。暗闇が百合華を睨み返す。そこにあるのは、怒りか、悲しみか…。これから織田夫妻の話を聞いていく上で、感情が揺さぶられることがきっと何度もあるだろう。それに巻き込まれないように……怜はそのように考えてくれたのではないかと織田夫妻は怜の気持ちを代弁してくれた。

 大丈夫。怜が通った苦しい足跡を追いかけてきた百合華は、これから出会うかもしれない恐怖や絶望も全て受け入れる準備ができていた。


 恭太郎が出張の間、仕事が終わると優子を含め夢子達と飲んだり、庭の散策をして、優子に草花のことを教えてもらったりしていた。


「優子さん。怜さんの目の色って、一般的に何色って言うんですか?」


「それね…私も過去に聞いたことあるのよ。ええと…ヘーゼル?そう。ヘーゼルっていう色の更に薄い色に近いって昔聞いたわ。」


「ヘーゼル…なるほど。」


「初めて怜さんの瞳を見た時、不思議な色だな〜って思ったんです。遠くから見ても、瞳の色は際立ってますよね。でも、本人は瞳の色のせいでからかわれたりしていたみたいですから、本人には聞けなくて…。」


「人間は、自分たちと異質なものを排除したがる。特に日本人は島国だからそうなのかな……。でもさ、みんな異質なのが当たり前じゃない?皆が一卵性双生児でもあるまいし。」


 皆が異質なのが当たり前…。確かにその通りだ。人は「わからない」ことを怖がる、という話を以前聞いたことがある。暗闇の森の中に1人立っていると、方向も何もわからなくて恐怖に慄く。

 人間というのは、少しでも違う人が「わからない」から恐怖に感じるのだろうか。恐怖の裏返しとして、先制攻撃のつもりで言葉や身体的な暴力で解決しようとしているのだろうか。人は弱い。


「倉木さん?…倉木さん?大丈夫?」


「あ、すみません。優子さんが言ったことが心に響いて、考えごとをしてしまいました。」


「いいのよ。考えることは百合華さんにとって今、最も大事なことだもの。ね。さて、明日は夫が帰ってくるわ。今日は休みもうか?」


 考えることが多すぎて脳がパンクしそうな百合華であったが、それを理解してくれる人が側にいる。それだけでも心強かった。

 明日からもまた、考えて考えて、悩みながら話を聞こう…。

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