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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
第13章 織田夫妻
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202. 織田夫妻・4

 織田夫妻の一軒家は、一般の家より大きいが思っていたよりはコンパクトであった。


「もっと豪邸だと思った?」


 優子夫人が聞く。


「いえいえとんでもない。」


「僕ら夫婦のモットーは慎ましく生きること。見栄をはらないこと。だから家もそこまで大きなのは望まなかったんだ。僕らは子どもが欲しかったけど、恵まれなかったからその分は広くなっているんだけどね。」


 織田夫妻が怜の父母の代わりになりたいと願い出た話は、植杉のところで聞いた。施設を出たばかりの怜の生活が落ち着くまで、この家で怜は過ごしたのだ。


 織田夫妻は怜を我が子として、怜は織田夫妻を両親と思えるようになったのだろうか。双方の話の仕方などを聞いていると、とても親密に見える。最初の頃に、バー・オリオンの東マスターが表現していた【ただならぬ関係】とは、疑似家族のことだったのだろうか。


 織田の家は白がベースの、洋風の家であった。門扉を開けると、黒いドアが待っていた。セキュリティにはこだわっているようだ。外観からしても、お洒落なバー・オリオンの設計に携わった社長の嗜好が現れている。暗くて見えないが庭は割と広いらしい。きっと妻の優子が手入れをしているのだろう。夜の風に揺れる木々の音が聞こえる。


 玄関はコンクリート打ちで、上がり(かまち)の間口は広めに取ってある。


「最近リフォームしてるから、結構綺麗でしょう。畳なんかも変えてスッキリしたの。」


 優子が言う。


「本当ですね、羨ましいなあ…私は1LDKでこじんまりと暮らしているので」


 百合華は苦笑しながらも、織田家の真新しい雰囲気を堪能していた。


「倉木さんに泊まってもらう部屋は、ちょっとした(いわ)く付きなんだ。ごめんね。」


 社長が全く悪びれもなくさらっと言う。


「……いわくですか。」


「まあ、見ればわかる。1階は1LKD、2階は3つ部屋がある。2階の部屋のひとつが、曰く付き物件だ。つまり君が滞在する部屋だ。」


 社長は笑いながら説明をしていた。


 百合華は1階を紹介してもらった。1階のフローリングは濃茶の無垢の木フローリングだった。セントラルキッチンに、リビングルームには革製のソファ。正方形の畳敷の客間は和風に仕上がっていた。

 2階へと続く階段を登った。黒のアイアンでできた手すりに、無垢の木の踏み面。

 ひとつひとつの設計にこだわりを感じる。


 2階にも1階と同じ濃茶のフローリングで作られた廊下があり、3ヶ所にドアが設置されていた。


 階段を登って右手、廊下の奥を見て、社長が言った。


「あっちが僕らの寝室だ。」


 廊下の左端にある部屋を指して、


「僕の書斎。」


 そして残された正面の部屋を指して、


「曰く付き物件。」


 最後は笑いながら言った。


「では、曰く付き物件を倉木さんに見てもらいましょうよ。」


「なんだか、怖いですね…。」


「大丈夫大丈夫。オバケとかじゃないから。」


「リフォーム済みのこんな綺麗な家で、本当に曰くがついている部屋があるのですか…?」


「ああ、見ればわかるよ。じゃあ、ドアを開けてみて。」


 百合華はドアを開けて息を飲んだ。


「………。」


「凄いだろ?リフォームの時どうするか迷ったんだけどね、記念に取っておくことにしたんだよ。」


 百合華が目にした部屋の、正面と左側の壁には直径70センチ位の大きな穴が空いていた。


「これは……。」


「穂積怜の置き土産だ。」


「ええ〜、凄いですね…ある意味。」


「色んな思い出が詰まっている部屋なんだ。だからスウィートルームを用意してあげられなくてごめんね。もし嫌だったら下の和室でもいいんだよ。」


 社長は優しく声をかけた。


「全く問題ありません。怜さんの生き様の詰まったこの部屋で過ごさせてください。」


「今の君ならそう言うと思ったよ。前の倉木百合華さんだったらどうかわからないけどね。」


「そんなに変わりました?私。」


「目に見えるように。」


 優子が目を細めて言った。


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