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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
第13章 織田夫妻
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200. 織田夫妻・2

 終業後、桑山が百合華を呼んだ。


「社長がお呼びだ。すぐ来いと。全速力で行って来い。」


「は、はい!!」


「嘘だ。普通に歩け。でも社長がお呼びなのは本当だ。」


「わかりました。ありがとうございます。」


 百合華は、もしかしたら植杉から早速連絡があったのかな、と思うと心が弾んだ。しかし、この間の突然の有給について指導されるのかも知れない…と思うと、単純に落ち込んだ。



 ———君、人の人生に首を突っ込み過ぎじゃないのかい?そろそろ終わりにして、自分の仕事に専念したらどうだい。



 社長にそう言われてしまったら、反論の余地がない。百合華は織田出版が大好きだった。ここを解雇される訳にはいかない。


 しかし、怜の調査もここまで来た。どうか上手い方に転がります様に……念じながら、社長室のドアをノックした。


「倉木です。」


「どうぞ。」


 ドアを開けると、そこには優子も居た。優子を見ると百合華はほっとする。


 そういえば、怜の調査で出会った女性…スナックのぶ絵の明美さん、竹内夫妻の涼香さん…皆独特の個性があって、会うと心が癒される。また会いたい、と思わせる、そんな女性たちであった。

 優子もそんな独特の魅力のある女性だった。久々に会えて、心から喜びを感じた。


「倉木さん、疲れてない?聞いてるわよ、あちこち飛び回ってるって。」


「慣れない調査……ですが、本当に色んな方が協力してくれるんです。私1人じゃとても解けなかった謎を、フォローしてくれる方に沢山出会いました。繋がりって凄いなあ…って感激しているところです。」


「ここまで君が諦めずに進んできたというのは、怜もそうだろうけど、我々夫婦も驚いているんだ。」


「私自身も驚いています。何度手を引こうと思ったか。何度泣いたかわかりません。でも中途半端で終わらせたくないんです。絶対完遂してみせます。」


「凄い心意気ね。私も見習わなくちゃ。」


「いえ、私は優子さんからも沢山学ばせてもらっています。庭園の美しさを保つ苦労は計り知れません。いつも屋上に行くとリフレッシュできて、助かっています。ありがとうございます。あっ、先日のユーカリ、もう根が定着したみたいですね。少し生長した気がします。」


「そうね。土に根を張り、栄養を吸収して、太陽を浴びてどんどん大きくなる。それが穂積怜君にはできなかった。でも…あ、ユーカリの花言葉、なんだっけ。メモしたんだけど。」


「新生・再生・思い出・追憶・記憶・慰め…だったと思います。」


「よく覚えてるわね。そうそう。それよ。その花言葉を思い出す度に、倉木さんと怜の顔が頭をよぎるわ。きっと縁あって、ユーカリを選んだのね。」


「元々花言葉は知らなかったのですが、後で調べたらそういうことで…。でもこの花言葉、私と穂積さんのテーマであるというのは私もずっと思っていました。」


「ところで、倉木さん。」


 社長が話を変えようとしている。百合華の背中に緊張が走った。


「怜自身から、施設退所後の話を倉木さんにしても良いという話がでた。植杉さんからも電話があってね、倉木さんに退所後の怜の話をしてやってくれという話だったんだ。」


「……そうです、どちらも、私の方からお願いしたことなんです。社長、大変不躾なお願いですが、どうか教えていただけないでしょうか。」


「でも退所後と簡単に言っても、20年間の時の流れがある。説明するにしても、それなりの時間が必要となってくるんだ。」


「社長にご迷惑をかけたくないという気持ちは当然持っています。社長にご負担が無いように、少しずつでも教えていただけると嬉しいのですが…。」


「私は乗り気よ?倉木さん。私は話す。」


 優子は百合華の目を見て言った。


「僕だって、乗り気じゃない訳じゃない。ただ、時間がかかることを覚悟して欲しい。ある程度簡略化することもね。それで良かったら……話がひと段落つくまで、うちに泊まらないか?無理にとは言わない。ただ、怜が使っていた部屋が余っているんだよ。」


「嫌だったら嫌って言ってね。でも、もしうちに泊まれば、話せる時間はうんと増えるわ。週末だって、朝から晩まで話し放題。どう?」


「…も、もし、ご夫妻がそれを許してくださるのなら、是非…!」


「歓迎するよ。」


 社長が笑った。


「良かった。断られるかと思って今日1日そわそわしていたの。」


「ありがとうございます。生活費は教えていただければお支払いします。」


「そういう細かいことはいいの。怜なんてそんなこと一度も気遣ったことないわ。」


「では、お言葉に甘えさせていただきます。」


「ああ、嬉しいね。あの空き部屋がまた誰かに使ってもらえるとは。」


 織田恭太郎は空を見て、感慨に耽っていた。


「たまにはオリオンで飲みながらはなしましょ、ね。」


 優子夫人が言った。


「はい!是非!」

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