196. 帰宅
突然の有給を許可してもらったため、明日は火曜日だ。色々あり過ぎて、曜日感覚がおかしくなっている。
児童養護施設にじのゆめで、理事長の植杉に礼を言って別れたのが17時過ぎだった。帰りのドライブはとても気の滅入るドライブとなった。
最後に怜に会ったのはいつだっけ……ああ、お酒の【ゴッドファーザー】を飲んで口論した日だ。和解できたから良かったけど。百合華が作った【ゴッドファーザー】の普通の味のおかげで、スナック【環】のママから弥生の話を聞けたんだった。
そうだ、怜にお弁当作る約束をしたんだっけ、帰りに何か材料買って帰ろう…。
それにしても弥生のような血も涙もない人間が現実に居るということに恐怖を感じた。弥生はモンスターだ。自分の利益しか考えず、子どもへの情など全く見せなかった。
しかしそんな弥生も、また虐待の被害者だった。
以前訪ねたセレステ1号間に住む飯島夫妻の、夫正三が話していたことが頭をよぎった。
「虐待は連鎖するって良く言われるだろ?子供の頃愛されたこと無い子が、どうやって自分の子を愛することができんだよ。見本、無いんだからさ。
虐待は連鎖しないってことを証明してくれる存在になって欲しいな。その鍵は、倉木さんよ、あんたの愛なんじゃねえかな。」
百合華の愛…。愛情で連鎖は止められるのだろうか。憎しみの反対が愛情なら、それはあり得るかもしれない、と百合華は思った。
百合華は運転している自分に客観的に気が付いた。
怜は、今車に乗れている。いつのタイミングで克服したのだろう。
植杉さんは、織田夫妻にかけ合ってくれると話していた。
これでもう一度織田夫妻と話すことができれば、だいぶゴールに近くことができることができる気がする。
……でも、ゴールって、どこ?
百合華はアパート近くのスーパーで食材を買って帰宅した。
体も心も疲れ切っていた。
けれど、また、怜に弁当を作れることに幸せを感じていた。
にじのそらを退所してから、現在に至る経緯はまだわからない。でも、それまでの間に【生きる】ことを選択して続けてくれた怜に感謝の念を覚えた。
明日は怜に、織田夫妻との再度の面談を許可してもらおう。
そして、笑顔で美味しい弁当を渡そう。
今晩は、春雨を作る予定だ。