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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
第11章 過去・2
160/232

190. 20年前・1

 心の風邪って何だよ…猜疑心(さいぎしん)を拭えないまま怜は1日3回、食後の経口服薬をすることになった。


 空腹が確信に変わってからは、テーブルに出される食事をガツガツ食べた。全て平らげるのに数分もかからない。

 看護師はそんなに急がなくてもいいよ、と一応声はかけるが、怜の生育歴を把握している者が怜の近くに居るようにしているようになっているので、それ以上のことは誰も何も言わなかった。


 怜が、軟飯を食べれるようになった頃、「食堂で食べてみる?」と、担当の森崎から提案があった。そういえばホールのような大きな空間で黙々とご飯を食べている少年少女たちを見たことがある。


「別にどっちでもいいけど……」


 怜が答えると、森崎は改めて食堂を案内した。患児たちは既に食事を摂っている。


「空いてる所に座ったらいいよ。」


 森崎が空いている場所を1つずつ指差しながら言った。

 怜は、一番近くの空席を選んだ。


「あんた新人?」


 随分太った女児が話しかけてきた。怜は無視した。


「喋れないのか。そういう子もいるわよね。」


 女児はあたりまえよ。というように食事を続けた。

 説明しなくても心配されない安心感を初めて感じた。


 ご飯を食べながらブツブツ話をしている子もいれば、いきなり手をあげる事を続ける子もいた。

 皆、怜より年下に見えた。


 ご飯中に笑顔で席を離れ、駆け回る少年も居た。その少年を笑顔で抱きしめている看護師も居た。その少年は何度席に戻ってもまた席を離れて、看護師を笑わせる。見ていて少し愉快だった。


 斜め前に座っていた、ある程度年長の男子がいきなり「マルスリムネジ3504」と叫んだ。怜は驚いたが、本当に色んな人が居ることに安堵を覚えた。



 服薬は最初の方こそ抵抗があったが、皆飲んでいると思うと怜は少し安心した。


 薬を飲み始めて2週間ほど経つと、少しだが1日のうち【死】を意識する時間が減ってきた。それでも蓮やももの事を少しでも思い出すと塞ぎ込んでしまうのだが。


 森崎看護師に勧められて、デイケアというものに通ってみることにした。とにかく遊んだり、好きな事ができる場所だよ、と教わった。


 週3回、デイケアに通った。クッキングは楽しかった。しかし、元々料理が出来れば、過去に追い込まれることは無かったのに…と思うと、作業途中でも部屋を出て行ってベッドで布団に(くる)まり号泣したこともあった。


 中でも一番楽しかったのは、ゲームタイムだった。熱中し過ぎて、時折笑顔が出ることもあった。ゲームは同世代の子どもとの対戦だったので白熱した。そこで知り合ったのが、瑛斗(えいと)という、同年齢の子であった。


 瑛斗もまた、被虐待児だった。親からの暴力と育児放棄をされて児童養護施設で過ごしていたことも同じであった。ただ、瑛斗の両親はまだ健在であった。それはそれで辛いだろう、と怜は思った。


 瑛斗は感情のコントロールが下手だった。落ち着いていると思ったら突然猛獣のようにキレて物を壊す。


 ある日瑛斗が言った。

「自分でもやっちゃいけないってわかってるんだ。でも、物事の解決方法が、ああいう暴力的なことだってことを刷り込まれちゃったんだ。それを治しにここに来てるんだと思う。」


 そんな瑛斗だったが、一緒にゲームに熱中して瑛斗が負けた時、暴力で悔しさを表現するのを必死にこらえているのにある日気が付いた。


「せっかくできた友達を失いたく無いから。」


 何故、暴走しなかったのかを後から聞くと、瑛斗はそう答えた。


「虐待って連鎖するってよく言われてるじゃん。俺達は、俺達の代で連鎖を断ち切ろうよ。」


 ある日瑛斗は怜に言った。

 瑛斗には未来がある。夢がある。


 怜はまだ、未来を考えるとそこにあるのは空虚だった。


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