184. 21年前・12
「嘘だろ!」
沈黙が流れる。
「嘘だ!嘘だろ!」
怜はその場に居る看護師、1人1人に聞き回った。皆顔を下に向けて口をつぐんでいる。それが答えなのか……?そんな、まさか。何かの冗談だろう?
「そんな筈無い!」
怜は点滴の針などを引き抜いて、裸足のまま看護師たちにぶつかり、突き放し、部屋を出て行こうとした。看護師に腕をつかまれ、「穂積君、お部屋に居よう。まだ穂積君の体調は良く無いの。」と言われた。
「そんなこと関係無い!」
怜はつかまれた腕を振りほどき、部屋のスライドドアを怒りを込めて開き、出て行った。後ろでは看護師がPHSで誰かに連絡している気配がした。
おれが生きているのに、あいつらが居ないなんてありえない。どこかの部屋で寝ているはずだ。
「おい!おい!蓮!!ももーーー!!」
怜は叫びながら、一部屋一部屋を探して回った。大部屋の部屋が多かったので、カーテンを開けて人物を確認した。まだ弟と妹は見つからない。
「蓮!もも!どこだよー!起きろよ!!」
なおも走りながら、カーテンを開いては閉じ、開いては閉じを繰り返した。他の患者は何事かと見に病室から出て野次馬している者も居た。
怜は叫べる限界のの大声を出して叫んだ。
「蓮ーーーー!!ももーーーーーーーーー!!」
そうだ、あいつらは小さいから小児病棟にいるのかも知れない。小児病棟はどこだ、怜は涙と鼻水を流したまま、走り出した。
そこへ屈強な体格の男性看護師が2人、怜に近づいて来た。
「よくがんばった。部屋へ戻ろう。」
「部屋で落ち着いて話をしよう。」
男性看護師は優しく声をかけてきた。怜は小児病棟はどこかを早口で聞いた。
男性看護師たちは首を振った。
「蓮……もも…………蓮……もも……。」
怜はその場で膝をついて崩れ落ちた。
ウワアアアアアアーーーーーーー!!!
怜の慟哭が、病棟中に響いた。怜は頭を抱え、額を廊下に打ち付けた。
怜は男性看護師2人に両方の脇の下を支えられ、裸足の足をひきずりながら病室へ戻った。人生でこれほど泣いたことは無かった。




