182. 21年前・10
織田恭太郎は、事故の第一発見者だった。
仕事が終わって帰宅してからも、その日は本屋の社長になる話を妻にしなかった。酒も飲めなかった。
「どうしたの?調子でも悪いの?」
妻の優子が心配している。
恭太郎はことのあらましを妻に話した。妻は絶句していた。
「県立総合医療センターに救急搬送されたらしいんだ。お見舞いに行くべきかどうか悩んでいるんだよ。」
「そうね…突然見ず知らずの他人が来たらその子もびっくりすると思うわ。」
「そっと、花だけ受付で渡して少年に届けて貰おうかな。」
「それでも良いと思う。」
「でも、彼が無事かどうか気になって仕方が無いんだ。」
「でも、昨日の今日でしょう?面会謝絶の可能性もあるわよ。」
「確かにな…花だけ届けてみて、いつ頃だったら面会できるかスタッフに聞いてみようかな。それともお節介だろうか。」
「病室に花があるのは良いと思うわ。何なら私も一緒にいく。あなたの花のチョイスは信用できないから。」
「ああ…助かる。」
恭太郎は今日は仕事は休みだった。
優子と共に花屋へ行き、優子が店員と相談しながら花を選んでいるのを側から見ている。バスケットに入った花束を選んだらしい。中々洒落ている。
恭太郎と優子が病院へつき、病院の窓口で昨晩搬送された少年との面会の希望を伝えると、事務員は内線で確認後、「申し訳ございませんが、現在面会はご遠慮いただいております。」と言った。
ついでに患者との関係を聞かれたので、「第一発見者です」と告げた。
「お手数ですが、この花を彼に届けてくれませんか?」
「わかりました。お名前頂戴しても宜しいですか?」
「織田です。オダと書いてオリタ。」
「承知しました。届けておきますね、ありがとうございます。」
「いつ頃になったら面会に来れますか?彼の顔を1度見ないと心配でたまらないのですが…。」
「私にはちょっとわかりません…申し訳ありません。」
「そうですよね、では宜しくお願いします。」
織田夫妻は対応してくれた事務員に礼を告げ、病院を後にした。




